第18回日本療養病床全国研究会大阪大会

パネル演題

摂食機能回復への取り組み
〜食べる楽しみは、生きる楽しみ〜

医療法人社団 良俊会 ふくの若葉病院

看護師  柴田 裕介

 平成12年の、開院以来、摂食機能の回復への支援に取り組み、胃瘻などから3食経口摂取可能になった症例は14例で、うち、胃瘻チューブ抜去が12、鼻腔チューブ抜去が2例です。胃瘻造設から訓練開始までの期間は、平均5.5か月でした。

 訓練開始から3食とも経口摂取が可能になるのに要した期間は、平均5.2か月でした。 訓練開始から胃瘻抜去までに平均6・9か月を要しました。水分が思うように経口から摂取できない症例の場合は、訓練期間が長くなりました。

このうち、9例までが成功した平成19年6月の時点で、「嚥下訓練食の標準化と嚥下訓練の効率化を図る」目的で、嚥下訓練パスを作成し、20年1月から本格的に導入しました。

訓練の適応の判断基準を導くために、成功例や中止例を参考にしたところ、「認知レベルや手や腕の運動機能から判断して、自力摂取の可能性があること」と「ある程度の意思疎通が可能であること」の2つを実施の要件としました。

 また、訓練をどのレベルから開始するかについて、フローチャートを作成しました。これにより、紹介患者に対しても、適切な摂食嚥下機能評価が行え、前施設からの訓練の継続が期待できます。

 次に評価の基準を作成しました。

 「誤嚥せずにたべられているかどうか」。

 「必要最低限の栄養が取れているかどうか」で評価します。

自力摂取か介助摂取かを問わず、これら、6項目全てを満たせば、1段階レベルアップ可能であると判断します。

 2週間毎に6項目について評価を繰り返し、6項目がクリアできると1段階レベルアップします。訓練開始後3ヶ月で中間評価をし、レベル0から進歩がなければ、そこで訓練は中止とします。レベル1から3であれば、更に、3ヶ月訓練を続け、6ヶ月後に最終決定を行ないます。

 この訓練パスを使用した事例を紹介します。

  80代の男性で、頚椎損傷 嚥下障害のため胃瘻造設になり、4ヶ月後に当院へ入院されましたが、3食経管栄養でした。訓練はお楽しみ程度だったため、VF検査を実施しレベル1から訓練を開始しました。訓練は、ベッド30度挙上としました。当院は全てのベッドに30度の角度を示すテープが貼ってあるため、摂取時の姿勢が統一できました。

  訓練当初はムセが見られ、時間も30分以上かけてベッド上、介助で摂取していました。

  訓練開始3ヶ月頃に、本人が 「もう少し食べたい」と言われたので、主治医に伝え、昼食はゼリー食とし、10時、15時の水分も経口摂取としました。

 経口摂取量の増加に伴い、リクライニング車椅子で食堂に出るようになると、ほとんどを自力で摂取できるようになってきました。

 日常生活においても、テレビのリモコンを自ら操作されるなどの行動が見られ、訓練開始5ヶ月頃には、朝のみ経管栄養とし、昼・夕食は経口摂取となりました。

 観察項目をみると、むせはなく、疲労感、発熱、食物残渣、喀痰は見られず、レベルアップの要件を満たしていたことから、訓練開始6ヶ月で3食経口摂取となり、本人と家族の希望で胃瘻チューブを抜去しました。

 その頃になると患者さんの表情は良く 自力で摂取され、家族と談笑される姿が見受けられました。

 パスは過去の症例から得た知見を基に作成したものですが、本症例をふくめ、パス作成後に3食経口摂取可能になった胃瘻3名、鼻腔栄養1名の4名全てが「意思疎通可能、 自力摂取可能」という適応の判断基準を満たしており、また、パスの最終評価期間とした6ヶ月で、3食経口摂取が可能になりました。このことは、我々の認識が正しかったものと考えます。

また、パスの活用は、関わる多くの職種が共通認識を持って、統一した援助の提供につながりました。

  そして、摂食機能の回復に伴い、個人差はあるものの、日常生活動作の改善を実感しています。また、日常行動の変化をとらえる観察力が、摂食機能の回復に結びつくことも再確認できました。

 私たちは、摂食機能回復への取り組みにより、抜去できる胃瘻もあることを証明してきました。人として自然に生きる姿を考えた時、多少のリスクを伴うとしても、生きるためのエネルギーは口から取るべきとの思いが強くあります。

食べる楽しみは、生きる楽しみです。この楽しみを、生きている限り、叶えさせてあげるのが、私たちの使命だと思っています。

 今後も、より効果的な摂食嚥下機能訓練が出来るよう、定期的にパスの評価および修正を行なっていく所存です。