第17回日本療養病床全国研究会浜松大会

一般演題

終末期ケアへの取り組み
〜患者家族と職員の思いの比較〜

医療法人社団 良俊会 ふくの若葉病院
終末期プロジェクトチーム
○細川歩美 (看護職)
大門文子 (介護職)

当院は、富山県西部の農村地帯の中心にあり、ベッド数は100床です。医療区分が導入されてから、重症患者や末期癌患者の受け入れが増加し、全退院患者に占める死亡退院患者の割合が年々増え、平成15年度は32%だったのに対し、平成20年度は69%と2倍以上になりました.

   

終末期プロジェクトチームでは、2年前より全入院患者の家族に対して「終末期に関する質問書」を継続的に実施しています。

また昨年、当院に勤務する全職員に対して、「自分の家族が高齢で慢性期医療の対象である」と想定し、同じ内容の意識調査を実施しました。そこで今回、患者の家族169名と全職員87名の結果を比較し、患者の家族と職員の間に思いの違いがあるかを検証しました。

   

実際の設問は9項目でしたが、そのうちの5項目について報告します

@ 普段から「死」について話されることはありますか?
A もし、口から食事が取れなくなったら、どうしてあげたいですか?
B 入院中、急性合併症を発症し治療を続けていますが、なかなか改善しません。そのような時、あなたはどんな方法を選びますか?
C 生命予後が不良で回復する見込みがなく、もう長くは生きられないとわかった時どうしてあげようと思いますか?
D 死」が近づいた時、どのような処置を希望されますか?

   

以後の内容では、患者の家族を「家族」と省略します。

 本人が「死」について話したり、家族と話し合ったりしていましたか?という質問に対しては職員の半分以上が「一緒に話をしたり、話しているのを聞いたことがある」と回答したのに対し、家族は34%でした。
 内訳は、「よく話していた」は1%であり、66%は「分からない」と答えました。職種別では、他の医療職、事務職に「一緒に話をしたことがある」という回答が多くみられました。

   

 経口摂取できなくなった時はどうしてあげたいですか?という質問に対しては、家族23% 職員13%が経管栄養を望んでおり、「少しでも長生きして欲しい」と答えました。
 また家族38%、職員52%が「点滴のみ」を希望しました。医師・看護職は、「点滴のみを希望する」の回答が多く、経管栄養の希望はわずかでした。

   

 「急性合併症がよくならない時どうしてあげたいですか?」では「色々な治療ができる総合病院へ転院させてあげたい」という職員の回答は40%であるのに対し、家族は、わずか7%でした。また、家族の79%が「最期まで当院で可能な治療を受けさせてあげたい」と答えました。

   

 「生命予後が不良だと分かった時はどうしてあげたいですか?」の質問には家族、職員とも「痛みや苦しみだけを取り除いて欲しい」との回答が多く、ほとんど差がありませんでした。

   

 「死が近づいた時の希望は?」という質問に対して家族1% 職員3%は「急性期病院へ転院し、出来る限りの延命治療を希望」していますが、ほとんどが「延命処置を望まない」と答えました。

   

考察

アンケートの結果からみえたことは、職員の半分以上が家庭内で死を話題にしたことがあるのに対して、家族は死について考えていたか分からないと答えており、この質問に対しては家族と職員の間に差がみられました。その背景には、一般的には日常生活の中で、「死」という言葉が好ましくなく、なるべく避けているという習慣があると思われます。しかし職員に於いては高齢者と関わる職場環境から、家庭内で「死」について話す機会が多くあったものと考えられます。 

一方、他の終末期に関する思いには、家族と職員の間に大きな違いは見られませんでした。

このことは、患者の家族も私たち職員も、人生の最期に対する価値観に大きな差はなく、医療現場で働く職員であっても家族の一員として「可能性があるのなら、できるだけの事をしてあげたい。無理であれば、痛みや苦痛だけは取り除いてあげ、安らかに見送りたい」という思いは共通していると思われます。

   

まとめ

今回、人生の最期に対する価値観には、家族と職員の間に差がないことが確認できました。このことから私たちの基本姿勢として、安楽な死への援助ではなく、最期までその人らしい生を完遂できるよう支援することが大切であり、終末期ケアへの取り組みとして、これからも家族と職員が思いを一つにして関わっていきたいと思います。