第17回日本療養病床全国研究会浜松大会

パネル演題

医療安全への取り組み
〜インシデント報告に基づく対策〜

医療法人社団 良俊会 ふくの若葉病院

○伊藤栄子 (看護職)
平松恵子 (介護職)
米田雅代 (看護職)

当院の病床は100床で、基本方針は、患者の人権の尊重と尊厳の維持・QOLの向上であり、これらを達成するには患者の安全確保が最重要課題となります。

当院では開院当初よりセーフティーマネージャーが中心となり、インシデント・アクシデントレポートを基に医療安全に取り組んできました。例えば、入院当日に転倒・転落アセスメント、身体拘束アセスメント、褥瘡の危険度判定、介助骨折の危険度判定を行ない、その結果を看護・介護サービス計画に反映させています。アセスメントの際は病棟職員だけでなく、PT・OT・ST・栄養士などの職種も参加し、さまざまな側面から観察、評価を行い、安全な療養生活の提供に努めています。

「2」の資料に掲示してありますように、1年間のインシデント報告件数は約160件と、毎年ほぼ変化はありません。そのうち最も報告の多い種類は転倒・転落で約60件でした。これに対して対策を講じることにより、H20年度には報告件数が31件と1/2に減少しました。

当院では、床に倒れていた場合は転倒・転落として報告され、見守りや介助が必要な患者がベッドに腰掛けていた場合や、廊下まで出てきていた場合の報告は転倒・転落の危険性として報告されます。

それでは、まず当院の転倒・転落防止対策について紹介します。

「3」の下写真のベッドコントローラーは、認知レベルの低下している患者が誤操作しないために、手の届かないところに置いておく様に注意を促す目印を表示してあります。

離床センサーや、起立お知らせセンサーも活用しています。

「4」

転倒転落アセスメントから得られた結果より、ベッド柵および低床表示を作成し、各患者のベッドサイドに掲示しています。これにより、リネン交換や離床介助のためにベッド柵を移動した場合でも、援助終了時には全ての職員が安全なベッド環境を整えることができます。

これらを実施したことにより、60件あった転倒・転落の報告よりも、転倒・転落の危険性の報告件数が増えていることがわかります。そして、ここ3年間の転倒による骨折の発生頻度は1%でした。

 医療区分導入後、酸素吸入が必要な患者が増加し、これまでは見られなかった酸素吸入に関するインシデント報告が、19年度には5件、20年度には6件発生しました。

「5」

そこで酸素吸入を行ないながら離床し、日常生活を営む患者のために酸素カードを作成し、移動場所での流量の設定間違いや、酸素チューブを流量計に再接続したときの酸素の流し忘れの防止目的に活用しています。

 ここでは患者誤認防止対策を紹介します。

「6」

与薬ミスの原因は、同姓、類似姓であることがわかり、配薬トレイに同姓注意を促すテープを貼り、名前確認の意識を高めるよう努めています。

 朝のミーティングで注射をする時、与薬をする時の確認の唱和をし、指差呼称の意識づけを図っています。

患者名の確認は、ベッドネームに加え、パジャマの前身ごろの裏側に名前を書いて行なっています。これにより、言語によるコミュニケーションが図れない患者への与薬ミスを防ぐことができ、また、離床した際の患者間違いを防ぐこともできています。

 これは車椅子使用時の外傷防止の工夫を紹介したものです。

「7」

リクライニング車椅子はバックサポートを倒したときに、アームサポートとの間に大きな隙間ができます。その隙間に患者の腕がたれ落ちて、車輪に巻き込まれるというアクシデントが発生したため、全てのリクライニング車椅子にクッションを常備しました。その後は同種の事故は1件も発生していません。また、左右のレッグサポートの間にも隙間があり、そこに足を挟んで足の指に切り傷を負う事故がおきたため、このときも全てのリクライニング車椅子に座布団を設置しました。座布団で隙間を広く覆うことにより、そのような事故が防止できています。

これはフットサポートの保護カバーです。移乗時にフットサポートの角に下肢がすれて外傷を起こすことを予防しています。

「8」

 当院ではOHスケールを使い褥瘡危険度をアセスメントしています。これにより患者に最も適したマットレスの選択が可能となります。また、可動基点に合致した頭頂部の位置とギャッジアップ時の角度をベッドにマーキングし、ずれによる褥瘡発生の予防に努めています。

「9」は、職員に対しての教育ビデオです。

 可動基点の計測と表示、手洗い方法、吸痰操作、嘔吐物の処理、針刺し事故防止などを作成しました。

これらのビデオを活用した研修により、援助を担当する職員に周知を図っています。

ここまで紹介した様々な安全対策の実施とビデオの活用により、安全な技術が習得されているか否かを確認するため、定期的なラウンドチェックを行ない、必要時指導を加えています。

現在はインシデントレポートの提出は習慣化されています。しかし、インシデントの背景にある問題の分析や、根拠のある安全対策についての意見の提案が少ないのが現状です。今後の取り組みの課題は、職員1人1人の問題分析能力を高めること、そして、根拠のある安全対策の提案とそれを十分理解し実践を継続することです。

「10」

 最後にまとめとして、今後の課題を発表します。

1.インシデント発生時に当該部署にて即座に分析し対応できる。

2.安全対策の根拠を理解し、実践を継続できる。

とし、今後も活動を継続していきます。