第16回日本療養病床全国研究会福岡大会

一般演題

終末期ケアへの取り組み
〜患者と家族の思いの比較〜

医療法人社団 良俊会 ふくの若葉病院
終末期プロジェクトチーム
○浦山 則子 (看護職)
黒田美紀子 (介護職)

   

死亡退院患者割合の推移

当院では重症患者や末期癌患者の受け入れが増加し、死亡退院患者が増えています。

平成15年度は全退院患者に対して死亡退院患者のしめる割合が32.3%だったのに比べ、平成19年度は66.2%と約2倍になりました。

   

満足できる最期を迎えるために

昨年研究会で「終末期ケアへの取り組み」と題して発表した際に、死生観を把握することが重要であると述べました。

今回、満足していただける最期を迎えるにあたって、具体的なニーズを引き出すため、患者さんとご家族に対して終末期に関する意識調査を実施しました。

   

意識調査

患者さんへの質問内容は

@自分の病気と病状について知っていますか?
A信仰している宗教はありますか?
B普段から「死」について考えたことがありますか?
C病気が悪くなり、もう長く生きられないとわかった時、あなた自身はどうして欲しいと思われますか?
すなわち延命処置を望みますか?
D口から食事が摂れなくなったら、どうしたいと思っていますか?
Eたとえば肺炎で病状が重くなった時、急性期病院に移りたいですか?
F人生の最期をどこで迎えたいですか?
G死が近くなったら誰に傍にいて欲しいと思いますか?

今回は質問内容が理解できる21名の患者さんにプロジェクトメンバーが直接聞き取り調査を行い、またそのご家族にも同様の質問を行ないました。

その結果の一部 先ほどのアンケート内容の中で赤色で表示してある質問C・D・Fについて紹介します。

   

延命治療を望みますか

質問Cの状態悪化時どうして欲しいか?延命治療は望むか?の質問に対して、患者さんの19%、ご家族の5%が「出来るだけ治療して長生きしたい。」と答えています。

「苦痛のみを取り除き,後は無理に命を永らえる事は望まない」と答えた患者さんは43%,ご家族が62%でした。

   

経口摂取できなくなった時

質問D経口摂取できなくなったらどうしたいか?という質問に対しては「経管栄養」を望む患者さんはいませんでしたが、24%のご家族は希望しています。

一方、患者さんの29%、ご家族の9%が「一切治療しなくてもよい。苦痛だけを取り除いてほしい」と希望しています。

なお「栄養を入れる為の管などはしたくないが点滴だけはしてほしい」と答えは患者さんが24%,家族が29%とほぼ同じ割合でした。

   

人生の最期を迎える場所

質問Fは患者さんには人生の最後を何処で迎えたいか?と質問しました。「寿命が短くなっても家で迎えたい」の回答は23,8%。「家族に迷惑をかけたくないので病院で」は8.9%。「当院で」は52.5%でした。

家族には「患者本人は最期を何処で迎えたいのか知っていますか?」と質問しました。「患者本人は家で迎えたいと思っている。」の回答は14,1%。「本当は家に帰りたいが家族に迷惑をかけるので病院で」の回答は47.5%。「患者本人は当院で最期を迎えたいと思っている」は24.2%となっています。

   

調査結果

「延命治療を希望するか」の質問では、希望すると言う患者さんと、しないと言うご家族との割合に差がある事がわかります。
本人の意思をご家族に伝えた上で、両者の思いの疎通を図ることが大切であると感じました。

経口摂取できなくなった時どうしたいかという質問では、患者さんは長生きしたいが経管栄養は希望しない。ご家族は延命治療は希望しないが経管栄養を希望する.という矛盾がみられました。
この点でも、患者さんとご家族の間では延命治療や経管栄養についての話し合いが充分でないことがうかがわれます。
双方に個々の治療内容を充分説明すると共にご家族と職員間の認識を一致させておく事が重要だと思われます。

最期を迎える場所として、「家で最期を迎えたいが迷惑をかけたくないので病院でいい」と患者自身が思っているのではないかと半数近くのご家族は考えています。
これは家で看取ってやれないという後めたさからでしょうか?しかし患者さんの半数以上は当院での最期を希望しています。
患者さんにとっては家で最後を迎えることよりも、病院にいるという安心感のほうが大きいのかもしれません。

   

まとめ

これまで当院では、患者さんの願いやご家族の気持ちを汲み取り、酸素ボンベを持っての一時帰宅や外出などの支援を行なってきました。
また出来るだけ最後まで患者さんの希望を叶えようと「最期まで口から食べる」「点滴や酸素吸入中でもその日の状態を見た上で、入浴していただく」などを、患者さんとご家族とで話し合い、進めてきました。
今後も終末期カンファレンスを行い、患者さんとご家族の意思を確認し、各職員間の情報の共有と調整に努め、そして患者さんとご家族の思いに寄り添いながら、心が癒され、満足できる終末期ケアを一緒につくりあげていきたいと思います。