第15回日本療養病床全国研究会神戸大会
「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」

一般演題

胃瘻から経口摂取能力回復へ
〜成功・不成功例の比較〜

医療法人社団 良俊会 ふくの若葉病院
前川 将子 (看護職)
平井 杏奈 (介護職)

はじめに

私達は昨年、胃瘻から脱却し経口摂取が可能となった8例について報告しました。
その後2例が成功し10例となりました。(以下成功群と略します)
今回は、摂食機能訓練を実施しましたが、胃瘻から脱却できなかった事例(以下中止群とします)と比較し検証しましたので報告します。
 なお、当院の概要は以下のとおりです。

   

T 研究方法および結果

  1 対象 (表1)

   

対象は成功群10名と中止群18名です。
性別・年齢・主疾患・経管栄養の理由は表のとおりです。
VF所見について説明します。AからEは藤島のグレードを示したものです。
Aは「基礎的訓練のみ可能なグレード2」で、
Bは「基礎的摂食訓練が可能なグレード3」です。
Cは「オヤツなど、楽しみレベルでの摂食が可能なグレード4」、
Dは「一部経口からの栄養摂取可能なグレード5」です。
Eは「スクリーニングにより嚥下には問題が少ないと判断しVFを実施しなかった例です」
これによると、VFの所見が「A」のグレード2が、成功群では4名で全体の40%。
中止群は2名で11%でした。したがって、訓練開始時の嚥下能力は中止群のほうが良かったといえます。

   

  2 胃瘻造設から摂食訓練開始までの期間の比較 (図1)

   

胃瘻造設から経口摂取訓練開始までの期間は、成功群は最短2ヶ月、最長2年8ヶ月で平均9.5ヶ月でした。
中止群は最短0ヶ月、最長1年1ヶ月、平均5.3ヶ月で、中止群のほうが成功群よりも早く訓練を開始していました。

   

  3 摂食訓練開始から、胃瘻チューブ抜去までの期間<成功群> (図2)

   

成功群において、摂食訓練開始から、胃瘻チューブ抜去に至るまでの期間は平均8.3ヶ月でした。
しかし、最短2ヶ月、最長約2年と、非常に個人差が大きいことがわかります。最も長くかかったC氏の場合、1日の必要水分量が、なかなか経口から摂取できなかったことが、最大の原因でした。

  4 摂食訓練開始から訓練中止までの期間 <中止群> (図3)

   

中止群の場合、摂食訓練開始から中止になるまでの期間は最短1ヶ月、最長4年2ヶ月、平均は21.1ヶ月(約1年9ヶ月)でした。

   

5 摂食訓練中止の理由<中止群>  (図4)

   

なぜ訓練中止になったのかを調べたところ、状態の悪化による死亡が7名、合併症(認知症や脳内血腫等)が3名、誤嚥の危険が4名、そして、介助者がどれだけ努力しても、食べようとしてくれない、意欲の低下が4名でした。

   

6 摂食訓練中止時の経口摂取段階 (図5)

   

摂食訓練中止の時点でどこまで経口摂取が進んでいたのかを調べました。棒付きあめの段階が4名、おやつのみが9名、1食以上経口摂取できていた方が3名、3食とも経口摂取できた方が2名で、5名が1日1食以上、経口摂取できるようになっていました。

   

7 自力摂取および意思疎通の状況 (図6)

   

自力摂取と意思疎通の状況を検討しました。成功群は3食経口摂取の段階で、10名全員が自力摂取出来ました。中止群では、5名が自力摂取できました。この5名は1日1食以上経口摂取できた患者でした。
次に、意思疎通の状況をみてみました。スライドの最下段に記しましたが、成功群10名、中止群18名 全員が、簡単な指示や言葉がけを理解できていました。
このことから、経口摂取可能となるには、@介助者の話す内容をある程度理解できるかどうか、 A自力摂取ができるかどうかが、成功率に影響すると思われます。

   

まとめ

   

年齢、VF所見、胃瘻造設から訓練開始までの期間は、中止群のほうが良い傾向がみられました。それにもかかわらず成功しなかった理由として、全身状態の悪化による死亡や合併症の発症と、食べようとする意欲の低下が挙げられます。このスライドに入れることは出来ませんでしたが、「食べたい」という意欲がある場合は、自分から食事に手を伸ばそうとする行動がみられ、ひいては食事動作の自立へとつながっていきました。したがって、意欲を引き出せるか否かが、経口摂取能力の回復への鍵となっているように思われます。