平成13年2月に設置した身体拘束廃止検討会では、まず、身体拘束の実態調査と職員の身体拘束に対する意識調査を実施しました。その結果、身体拘束は、現在の患者さんの状態を把握した上で、安全と個人の尊厳とのどちらを重視して対応すべきかという、大変難しい判断を伴う行為であることを認識し、平成13年5月に身体拘束廃止委員会を発足し、身体拘束廃止のための対策と実施を開始しました。
 現在は毎月の定例会で、やむを得ず拘束を実施している患者の状態報告と、廃止に向けての取り組みを検討しています。

身体拘束の必要性が検討された患者さんの状態

  1. ベッド、車椅子から転落して四肢の骨折、頭部外傷などの危険が予測される
  2. 徘徊(特に夜間)傾向があり、歩行時の転倒により四肢の骨折、頭部外傷などの危険が予測される
  3. 経管栄養や点滴、酸素療法などの際にチューブを引き抜き、肺炎などの呼吸器合併症、大出血、呼吸困難などが引き起こされる危険がある

身体拘束廃止への対策

基本は人手を多くして、それぞれの患者さんに予測される危険を個々のレベルで防止する手厚い介護に尽きる。このため介護職員を増員し、できるだけ患者3名に対し1名の介護職員を配置している(介護保険基準は4:1以上である)。

1.身体拘束アセスメントと拘束の必要性

全患者を対象に、入院時および状態変化時には「アセスメントシート」に基づいて身体拘束の必要性を3名以上の職員で評価します。その際はまず、以下の対応を検討します。

1)身体拘束せずに安全を確保できる方法がないか

当院は全ベッドが低床電動ベッドですが、例えば、ベッドからの転落の危険性の高い患者さんには、ベッドサイドに離床お知らせセンサー「まっ太くん」を設置して、離床をすばやく察知できるようにしたり、衝撃緩和マットを敷き、万一転落しても危険が少ないようにする。

また、車椅子から立ち上がり転倒する危険がある患者さんに対しては、立ち上がられると音楽が鳴って周囲に知らせてくれる「あゆみ」を装着し、危険を早くにキャッチできるようにする。

および、危険予知または危険回避が困難な患者さんで、無断で病院を出て行かれる恐れがある場合は、アクセスコール(通称「お守りセンサー」)の送信機を身につけてもらい未然に防止できるようにする、などの対策を取ります。

2)拘束に代わる手段を検討する

例えば、爪で皮膚を傷つける恐れや、酸素チューブ・点滴ライン・経鼻栄養チューブを抜く危険がある場合には、ハードミトンでなくドライバー手袋やソフトミトンで様子を見る。

胃瘻チューブや膀胱留置カテーテルの抜去を防止する目的で、まず、つなぎ服でなく腹巻きやバスタオルを腰に巻いて様子をみる、などを試みます。

2.身体拘束の実施

1)説明と同意

 上記の代替方法を試みても、なお安全が確保できないと3人以上の職員が判断した場合は、主治医に報告します。主治医も同意見であれば、主治医から患者および家族に身体拘束の必要性を説明し、同意書にサインを受けます。そして、身体拘束継続中はこの説明と同意を、3〜6カ月ごとを目安に行います。

2)身体拘束実施中のケア計画および観察と記録

 拘束を廃止するための対策、および拘束による身体的・精神的・社会的な弊害の防止対策等を検討しケア計画を立案します。それをもとに観察し、日々の様子を記録します。当院では、当院で実施する身体拘束手段ごとに「身体拘束に関する経過記録および廃止に向けたケアプラン実施記録」という、専用用紙を作成し用いています。

3)評価

 毎月末には、日々の記録から患者さんの状態を評価した上で、身体拘束の継続の必要性を判断し、委員会で報告しています。委員会では、病棟の意見を尊重しながらも、多職種による意見交換を行います。

3.身体拘束の解除

 患者さんの状態が変化しアセスメントした結果、身体拘束の必要がなくなったと3人以上の職員が判断した場合、主治医に報告します。主治医も同意すれば患者さんに説明し、拘束を解除します。同時に家族に対して「身体拘束解除のお知らせ」を渡します。

4.身体拘束パトロール

 入院中の事故によって合併症を併発させないことは、私たちの使命の一つです。だからと言って、安易に身体拘束を行うことは、厳に慎まなければなりません。その意味を込めて、平成24年3月から年2回、各階の委員がチームを組んで、直接患者さんのベッドサイドに訪問し、必要性の是非や方法の妥当性などについて意見交換を行っています。身体拘束は、「個人の尊厳を傷つける行為である」ことを心に深く刻み、医療従事者の職業倫理に恥じないように、これからも活動していきたいと思います。

平成25年10月