○●第6話−(4)●○




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 アラン達がアルハントに戻り、一夜が明けた。朝食を終えた後、彼らは応接間へと 集まっていた。
 アランの隣にはジルが、その隣にはカインが腰掛けている。その向かい側にはジェイルと レガレスの姿があった。
「それでは、これから400年前の真実についてお話します・・・・・・」
 ジェイルはゆっくりと話し始めた。

 およそ400年前―――この《アルハント》が建国された。
 かつては小さな国々が、絶える事のない争いを繰り広げていた。争いで失われていくたくさんの 命。明日の見えない生活に、人々は心身共に疲れきっていた。
 そんな時、小さな国の一領主の青年が立ち上がった。
( 争いの無い誰もが平和に暮らせる 国を――― )
 それが彼の願いだった。彼の理想の下に、たくさんの者が賛同し、力を貸した。まだ20歳を 過ぎたばかりの若い青年であったが、彼は人を惹きつける力を持っていた。そして王となり得る 資質も。
 長い長い争いの間、彼の友として、仲間として彼を支え続けた者達がいた。
 1人は、初代 《マスター》となる魔術師、ジーク・クラーク。圧倒的なまでの魔力を持つ彼は、 この争いの終息に大きく貢献した。 ジークはアルハントの友でもあり、命尽きるその時まで彼と時を共にしたのだという。
 もう1人は女性だった。ソニア・ローランズ・・・・・・彼女は国々の争いで滅ぼされた、小国の 貴族の娘だった。国を・・・家族を争いで無くし、彷徨っていた彼女を救ったのが アルハントだった。
 彼女は剣を覚え、瞬く間に上達していった。その腕は、師であったアルハントを超える程に。 やがて彼女は自ら希望し、戦場へと向かった。その壮絶なまでの強さと美しさに、彼女はいつしか 《赤い女神》と呼ばれ始めるようになった。戦いの女神、勝利を導く女神・・・・・・人々は 彼女を女神として崇めた。
 剣を振るう彼女は何よりも美しかった。太陽のように赤い髪がなびき、艶やかな笑み。 味方からすれば女神かもしれない・・・・・・しかし逆の者からすれば、彼女の姿はまさに鬼神。
 剣を離した時の彼女は、一人の優しい女性だった。ソニアとアルハントは、いつしか深く 愛し合うようになっていた。そして、この争いが終わった時は、2人で必ず結婚しようと 誓い合って・・・・・・。
 そして10年の時を経て、彼の理想とした国が建国された。それが、青年の名前から付けられた 《アルハント》・・・・・・この国だった。
 しかし建国したばかりの《アルハント》は、あまりに不安定だった。それに、 近隣の国々がいつ争いを仕掛けてくるかも分からない。 そんな時に声を掛けてきたのが、隣国だった。   隣国の王は、娘を王妃として迎え入れるならば、《アルハント》との同盟を結んでも構わない、と。 《アルハント》の持つ広大な国土と、豊かな資源・・・・・・それに、 国が落ち着きさえすれば、《アルハント》は間違えなく大国となる。その前に友好を結んで おきたかったのだろう。
 その申出は、《アルハント》にとっては断る事のできないものだった。 もし断れば侵略する・・・・・・そういう意味も含んでいたのだ。
 この同盟は、アルハント・グリンフィード1人の感情で決められる事ではなかった。 だが自分には、ソニアという愛する女性がいる・・・・・・ 彼女を裏切る事は決してできない。悩み苦しむアルハントに別れを言い出したのは、 ソニアの方からだっ た。自分がこの国から去るから、どうか国の為に同盟の道を選んで欲しい、と・・・・・・。
 2人の友であるジークは必死に止めたが、彼女の意思はもう決まっていた。アルハントも 引き止める事はできなかった。
 それから先は、ジル達が剣の記憶で見た映像だった。
 深く・・・深く愛し合いながらも、別れる事となった2人。来世で結ばれる事を剣に 誓って―――。
 真実は、あまりに残酷であまりに悲しい物語だった。

 聞き終えた時、ジルの目からは涙がこぼれ出していた。アランとカインの 2人も言葉を失っている。
「ジル殿、その剣を陛下に」
「はい・・・・・・」
 ジルは腰から剣を外し、それをテーブルに置いた。自分以外は誰も抜く事ができなかった、 銀色の古い鞘に収められたまま。
「陛下、この剣を」
 アランは小さく頷くと、その剣に手を伸ばした。そして持ち上げたその剣を、ゆっくりと 鞘から引き抜く。中から現われた赤い刀身は、窓からの差し込む日差しに反射し、眩しい 光を放った。
「剣が・・・・・・」
 一同は目を見開いた。
 この剣を抜く事ができるのは、アルハントとソニアの生まれ変わりのみ――― アランはアルハントその人の生まれ変わりである、という証だった。アラン自身も驚い ているらしい、不思議そうにその剣に見入っている。
「お2人がこの町で偶然出会われたのも、全ては運命だったのでしょう。アルハント様と ソニア様の魂が、2人を巡り合わせたのです」
「それでは、僕を呼ぶあの声は・・・・・・」
「恐らくは、アルハント様の声だったのでしょう」
 14歳の時に故郷を旅立ち、自分を呼ぶ声を捜してここ《レント》へと辿り付いた。 自分を呼ぶ優しい声・・・・・・この王宮に来てしばらくすると、その声は聞こえなくなった。 探し求めていた人物は、ここにいたという事だったのだろう。
 アランは剣をしまうと、その場で立ち上がった。そして隣に座るジルに向かって、スッと身を かがめた。
「ジェラルディン・・・・・・私があなたを好きになったのは、運命だったからではない。私自身が あなたに惹かれたのです」
 アランは頭を垂れている為、その表情は見えない。
「でも・・・・・・アランさんはこの国の王様で、僕は貴族でも何でもない、普通の人間です・・・・・・」
 うつむくジルの声は震えていた。
「あなたを心から愛している。どうか私と結婚して欲しい」
「アランさん・・・・・・」
「ジル、お前もアランの事が好きなんだろ。だったら応えてやれよ、一国の王がひざまずいて まで求婚しているんだぜ?」
 口を挟んだのはカインだった。その言葉にジルの顔は更に赤くなる。
「えっと―・・・・・・」
「ジェラルディン?」
 アランは不安そうに、目の前に座る少女を覗き込んだ。ジルはゆっくりと顔を上げる。
「僕も・・・いえ、私も陛下を愛しています。初めて会った時からずっと・・・・・・」
 そう言うと彼女は微笑んだ。その目からは涙が溢れ出している。
 アランはしゃがんだままの体勢で、ジルの体を抱き寄せた。 そして、強く・・・強く抱きしめる。その顔には、いっぱいの笑みを浮かべて。
 400年の時を隔て、ようやく果たされた約束―――。
 2人を見つめるジェイルとレガレスの目にも、涙が溢れ出していた。


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