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王都の火災から始まったザラス内乱は、わずか1日足らずで完全に終息した。 新たな王となったブラッドの声は、カインの魔術でザラス全土へと伝えられた。 前王ハーディスの死、そして彼が行ってきた無益な争いの終りを。その瞬間、ザラスの大地が 震えた。それは 国中から湧き上がった、大きな歓声によるものだった。 この内乱で流れた血は、予想以上に少なかった。しかし失った命はもう戻ってはこない。 その事だけは、決して忘れてはならない。 王宮の応接間には今、新たな王となったブラッド、4将カルバート、 ラング。そしてアラン、カイン、ジル、デコーズがいる。カインの隣にはもう1人、 見慣れない少女の姿もあった・・・・・・ウレーネである。 4将といえばガラフであるが、彼はもうこの世にはいない。恐らくは、 彼に恨みを持つ者たちの手によって・・・・・・。 もう1人の4将その人は、まもなく戦地から戻ってくるだろう。ハーディスの死によって、 戦う必要など何も なくなったのだから―――。 「アンドリュー陛下、そしてアルハントの皆さん。 この度はたくさんのご助力を頂き、本当にありがとうございました。私がこうして王宮に 戻って来れたのも、全て皆さんのおかげです」 ブラッドは深く頭を下げた。カルバートとラングも彼に倣う。 「ハーディス殿の事は・・・・・・」 アランは言いかけたところで言葉を止める。顔を上げたブラッドの表情は、穏やかだった。 デコーズからはまだ、あの時の弁明は聞いていない。しかし結果として、彼のとった行動が 正しかった 事は、あの場にいたアラン達にも分かっている。分かってはいたが・・・・・・。 どちらにしても今回の内乱は彼の功労であり、罰する事はできないだろう。 「私はこの国の王として、まずは他国への謝罪を行うつもりです。王が交替したところで、 我が国が他国へ行った侵略は、決して許される事ではありませんから。 そして近い将来必ず、このザラスを平和で争い の無い国に導いてみせます・・・・・・アルハントのように」 「ブラッド陛下、あなたならばきっと実現できると信じています」 2人の若き新王は、強く握手を交わした。 「ところでアンドリュー陛下。お二人の結婚式には、是非ともご招待頂きたい」 「!」 その言葉に、アランとジルの顔が真っ赤になる。それを見たブラッドは、楽しそうに 笑い出した。何も知らないカイン達は、不思議そうに首を傾げている。 「えっとー・・・・・・あれは、冗談ですよね?」 ジルは真っ赤な顔でアランを見上げた。 「もちろん本気だ。言っただろう、闘いが終わったらお前に結婚を申し込むと。正式には、 アルハントに戻ってからになるが」 「あ・・・・・・アランさん!」 ジルの顔は、例えようも無く真っ赤になっていた。その姿を見た周りの者までも、 何やら恥ずかしくなる程に・・・・・・。 「待ってくれ! 私は数ヶ月も前から、彼女に結婚を申し込んでいるんだが」 口を挟んだのは、デコーズだった。彼のその真剣な顔は、果たしてどこまでが本気なのだろうか? 皆は疑わしい表情で、デコーズを見つめる。この男だけは信じられない―――と。 カインはその様子を見つめながら、穏やかに微笑んでいた。彼の顔を、隣からウレーネが覗き込んでいる。 この場に居る者の中で、彼女以外は誰も気づいていないだろう。その微笑の中に含まれている、 彼の本当の心を・・・・・・。 『カイン、あなたもあの娘の事が好きなのね』 ウレーネのその声は、カインの頭の中に直接響いてきた。その声は、他の者には決して聞こえ ない。 『・・・・・・そうみたいだな。実は俺も、初めて気がついた』 『鈍いわね、まったく。そんなだと、本当にもっていかれちゃうわよ?』 『あいつが、ジルが好きなのはアランだよ。俺はあの2人ならば、喜んで祝福する事が できる・・・・・・どちらも同じぐらい大切な人だから 』 ( それはどうかしら―――― ) ウレーネはあえて声にはしなかった。 彼がアラン達の下へ駆けつけた時、ジルという少女が浮かべた表情・・・・・・それは いっぱいの笑みだった。彼女はカインの無事を、心から祈っていたのだろう。 種族の違いがあるとはいえ、ウレーネも同じ女だからこそ分かる。 あの少女は、カインの事も愛しく思っている。 もし彼がその事実を知っても、彼女に自分の気持ちを伝える事はしないだろう。彼が願うのは、 大切な2人の幸せなのだから・・・・・・。 『気に入ったわ、あなた。何なら私が結婚してあげてもいいわよ』 「何だって?」 カインは思わず呟いていた。その顔は、驚きに目を見開いて。 周りの者達も彼らの方を振り向く。 ウレーネはニコニコと笑みを浮かべていた。これ程の美貌の少女からの求婚とあれば、 男ならば誰もが心揺れるだろう。カインも例外ではないのか、 その顔は少し赤くなっているようにも見える。 「ずっと気になっていたんですが、カイン殿・・・・・・その少女は?」 カルバートが尋ねた。 カインの腕に絡み付いているのは、見た事もないような美少女だった。見た目だけならば、 17、8歳というところだろう。 しかし彼女が人間では無い事は、誰が見ても一目で分かる。 「懐かれちまったんだ・・・・・・」 カインはため息と共に呟いた。彼女はその言葉に、頬を膨らませる。 「あら、失礼ね! 誰が助けてやったと思っているのよ」 ウレーネは、どうやらカインの事を気に入ったようだ。この分だと、アルハントまで着いて 来る気なのかもしれない。 カインはそれ以上は口を開かなかった。この場を去る自分が彼女を精霊だと紹介しても、 無駄な混乱を生むだけだろう。カルバートもそれ以上は聞かない事にした。 |