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アラン達3人は、玉座へ向かう廊下を真っ直ぐに進んでいた。 兵士達は次々に3人へと襲いかかってくる。しかし3人の足が止まる事はない。目の前の 兵士達は全員、瞬く間に床へと沈んでいった。 言っていた通り、ブラッドの剣の腕もなかなかのものだった。 細身の体からは想像もつかない程の重い一撃で、 向ってくる兵士達に当身を食らわせていく。その動きの俊敏さにも感嘆した。 「間近で見ると、凄まじいものですね・・・・・・彼女の剣は」 自国の兵と剣を交えながら、ブラッドが呟いた。アランもそれに頷く。 ジルの耳には彼らの声すら届いてはいないだろう。剣を持った彼女は、闘神そのものになる。 向ってくる者を倒す、それだけが今の彼女の姿だった。 やがて兵士達は道を開け始めた。目の前にいるのは、どう足掻いても敵わない相手・・・・・・ それに、ブラッド殿下に剣を向ける事にも躊躇いがあったのだろう。彼らとてハーディスに逆 らえずに戦っているだけなのだから。 やがて3人は玉座のある扉の前へと辿り付いた。 「ブラッド殿下、ジル」 アランに名前を呼ばれ、ジルが顔を上げる。もう元通りの彼女に戻っていた。 「彼と闘うのは、私1人に任せてくれないか」 「えっとー・・・・・・」 ジルは不安そうにアランを見上げた。ブラッドはそれに静かに頷く。 「私はグレイシスの屋敷で彼に破れた・・・・・・だから、今度こそ勝ちたい。必ず勝つから、 お前には見守っていて欲しい」 「アランさん・・・・・・」 アランは穏やかに微笑むと、そのままジルを抱き寄せた。それは優しい抱擁・・・・・・ 少し力を込めれば、すぐに振りほどく事ができる程の。ジルは真っ赤な顔で、 アランの胸に顔をうずめた。 側で見ていたブラッドが思わず視線を外す。その顔は、少し赤くなっていた。 「《赤い女神》の祝福を貰ったからには、決して負けないよ」 「知っていたんですか!」 ジルはアランの腕の中で、ハッと顔を上げた。アランは彼女を見つめていた。 優しく、そして愛しむような眼差しで。 《赤い女神》・・・・・・それはあの記憶の中に出てきた、ソニアという女性の事だろう。 そしてジルは、彼女の子孫であり、生まれ変わりなのだという。 その事は、彼女もつい先日知ったばかりだった。 ( アランさんは一体、いつ頃から知っていたのだろうか ―――― ? ) ジルのあまりに驚いた表情に、アランは小さく笑った。 「しつこい位に縁談の話を持ってきていたジェイルが、お前が来てからはぱったりと 何も言わなくなった。それはそれで嬉しいのだが、少しおかしいと思って問いただしてみたんだ。 そうしたら、ようやく口を割ったんだよ」 「それって・・・・・・」 ジルは不思議そうに首をかしげる。 「アルハントに戻ったら全てを話そう。まさか戦いの前に結婚を申し込む訳にはいかないからな」 「えっ!」 ジルは思わず叫んだ。顔は例えようのない程に真っ赤になっている。アランの腕の中で、 心臓が大きく波打っていた。この場で赤面したのはジルだけではない、側にいたブラッドも同じだった。 果たして自分は、この場にいて良いのだろうか、と。 アランはそっと彼女の体を開放する。 「必ず勝ってお前の元に戻ってくる。それまで待っていてくれ、ジル」 ジルはそれに、小さく頷いた。 アランは目の前の扉をゆっくりと開いた。 広い広い空間の中には、玉座に腰掛けた1人の男性の姿があった。そう、 あの日グレイシスの屋敷で剣を交えた男に間違えなかった。 彼は整ったその顔に、 薄っすらと笑みを浮かべている。身につけているのは、黒を基調とした簡素な着衣のみ。 それでも彼が纏うその空気は、王者のものだった。 アランは玉座へと続く赤い絨毯の上を、ゆっくりと進んで行った。ハーディスも玉座から立ち上がり、 壇上から降りて行く。 2人の王はそのまま、2メートルほど開けた位置で静止した。 「ようこそザラスへ、アンドリュー・グリンフィード陛下」 アランはそれには答えない。目の前に立つハーディスを、静かに見据えていた。 「ご覧の通り、私を守る騎士はもう誰もいない。私さえ倒せば、あなた方の勝ちですよ」 「力で支配しようとしても、人の心までは支配できない。その事が、なぜ分からなかったのだ」 アランの言葉に、ハーディスは小さく笑う。 「弱い者は強い者にひざまずく、それが世の理(ことわり)であろう」 「ハーディス、お前は間違っている。それではなぜ、お前は今1人なのだ?」 「私にも力が足りなかった・・・・・・ただそれだけだ」 ハーディスのその顔には、後悔も悲しみも・・・・・・何も浮かんではいなかった。 アランは剣を鞘から抜くと、ゆっくりと構えた。 「お前は多くの命を奪いすぎた。その制裁は受けねばならない」 「最期に剣を交える相手は、あなただと思っていたよ。アルハントの王、アンドリュー陛下」 ブラッドとジルは離れた場所から2人を見つめている。 ジルはグレイシスの屋敷での2人を見てはいない。カインの話では、2人はほぼ互角の実力 だったが、最後に勝ったのはハーディスの方だったと聞いた。ジルは不安な表情を浮かべながら、 両手を体の前で組んだ。 『アランさん・・・・・・どうか勝って』 隣りに立つブラッドの表情は穏やかだった。彼は今、何を思い何を願いながら 2人を見つめているのだろうか。自分を陥れたとはいえ、血の繋がった弟であるハーディ スに・・・・・・。 その時だった、大きな爆音が鳴り響いた。 どこか離れた場所で起こったらしい、ジル達のいるこの広間にも大きな振動が伝わってくる。 魔術による爆発だろうか? 「カインさん?」 ジルは呟いていた。何故だろうか、胸騒ぎがする。自分の知るカインという青年は、 誰にも負ける筈がない。それは分かっているのに・・・・・・。 しかし、自分はこの場から離れる訳にはいかない。ジルは自身の拳を、強く強く握り締めた。 アランとハーディスの2人には、今の爆音さえも届いてはいなかった。 2人は静止したまま、 静かに見つめ合っている。彼らには今、お互いの姿しか目に入ってはいない。 先に仕掛けたのはハーディスの方だった。 渾身の一撃がアランへと振り下ろされる。それを受けたアランの体は、バランスを崩して揺れる。 それほどまでに重い一撃だった。 アランが体を立て直すよりも早く、ハーディスの剣は彼の喉へと伸びる。アランは屈んで それを避けると、床に手をついて立ち上がった。そのままハーディスの懐へと斬りかかっていく。 鋭く抉る様な一撃に、避けきった筈のハーディスの服が僅かに破れた。ジルから見て2人のスピード は互角。長身から繰り出される一撃の重さもほぼ互角だろう。 静まり返った空間には、剣と剣の交わる金属音だけが響く。何者も立ち入る事はできない。 2人の目にはお互いしか見えてはいなかった。 ジルとブラッドは、息をするのも忘れたかのように2人に見入っていた。 |