○●第5話−(2)●○




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 それは夜が明けたか明けないかの早朝に起こった。
 王都の数ヶ所から突如立ち上った炎。煙と火の粉が町を覆い、逃げ惑う人々の悲鳴が 鳴り響く。

(ザラス王都にて内乱―――――)

 すぐに警護の兵士達が鎮圧に向った。町の警護に当てられている兵の数は少ない。 その数はたかだか200名程度だった。
 兵士達は驚きに目を見開く。自分達の目の前にいるのは、武器を持った民衆達だった。しかも その数は自分達を遥かに上回る。早急に援護の兵を派遣してもらえるよう、王宮に伝達を 送った。
 武器を持った民衆達は、7人前後の小さなグループを形成していた。そのグループ内に 1人ずつリーダーがおり、その者の指示で動いている。それは昨日今日かき集められた者達 の動きではなかった。相当の指導者が先頭に立っているのだろう。圧倒的な人数で警護の兵士達を取り 囲むと、その手から武器を奪っていく。
 瞬く間に警護の兵士達は、民衆達によって取り押さえられてしまった。
 そしてこの火災であるが、実際に燃えているのは私腹を肥やす貴族達の屋敷・・・ もしくは、悪徳の商人達の屋敷ばかりだった。それらの屋敷は全て高い塀に囲まれていて、 隣りに燃え移る心配はない。火災の規模は大きいように見えて、町には一切の被害を与えて いないのだ。デコーズの策は、ここまでは完璧だった。

「4将は出て来るんでしょうかね」
 ナットは隣りに立つデコーズに問いかけた。
「来るだろうさ。これだけ盛大に暴れてやっているんだからね、来て貰わないと困るよ」
 デコーズは燃え盛る炎を見上げながら、鮮やかな笑みを浮かべた。それは心底楽しんでいる、 凍りつくような冷たい笑みだった。
 ナット達は身を震わせる。この男が味方で本当によかった。もし逆だったなら・・・・・・ そう考えると、とてつもなく恐ろしかった。
 30分もしない内に、王宮から数千の兵士が援護に駆けつけてきた。読みの通り、 4将その人が先頭に立っている。ラング将軍だった。
「皆の者、よく聞け! 我らの軍は反乱グループの制圧は行わない。民衆を安全に避難させる 事だけを優先しろ!」
 ラング将軍の言葉に、兵士達の間からざわめきが起こる。確か将軍が命じられたのは、 反乱グループの制圧ではなかったか・・・・・・と。
「私はこの時から、ハーディスに反旗をひるがえす! 強制はしない。私について来る者は従え、 それ以外の者は今すぐ王宮に戻るがいい。どちらにつくかは自分の意思で決めよ!」
「将軍! 何を血迷われたのですか、陛下に逆らってただで済むはずがないでしょう」
 それはラングの隣りに立つ、若き副官の言葉だった。しかしラングはそれに耳を貸さず、 再び大きな声を張り上げた。
「ブラッド殿下がお戻りになられたのだ。殿下は半年以上もの間、ハーディスによって 拘束されていた。その殿下を救い出したのは、今王宮に捕まっているカルバート・ラジェスタ 卿である。殿下を匿っていたという罪でラジェスタ卿は捕まった。それは明らかにおか しいではないか。先王はブラッド殿下に次の王を託されたのだから。玉座を奪い返す事は、 正義である。反逆者は、ハーディスの方であろう」
「ブラッド殿下が!」
 その名前に兵士達のざわめきが大きくなる。
「まだ反逆者ハーディスが恐ろしいのか?」
 ラングの問いかけに、兵士達は大きな歓声を上げた。そして武器を頭上にかかげる。誰一人王宮を振り返る者はいない。 それが答えだった。
「よし、1隊から7隊までは火の鎮圧に急げ。残りの隊は全員、町の者達の誘導を命じる。 民衆には決して怪我をさせるな」
 大きな返事と共に、皆は一斉に散らばっていった。
「ラング将軍」
 背後からの声に振り向くと、そこには1人の青年が立っていた。明らかに東方の者と は違う容貌を見ても、ラングは驚かなかった。
「貴公がデコーズ・セドリック殿ですね。お話はラジェスタ殿から聞いています。 この指揮を取っているのはあなたですね、噂通りの見事な手腕に感服しました」
「いえ、こちらこそ。ラング将軍が出てきて下さって、本当に助かりました」
 2人はその場で握手を交わした。昨日の今日なので、ラングには何1つ連絡はいっていない。 それでも彼は、デコーズの意図をちゃんと理解していてくれたようだった。さすがは4将の 1人である。
「この場は将軍にお任せしてもよろしいでしょうか? 私どもの仲間が王宮に向っている筈 なので、私もそちらの加勢に向おうと思います」
「お任せ下さい。どうか、ブラッド殿下をよろしくお願いします」
 デコーズはラングの言葉に頷くと、魔術を唱え始めた。

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 王宮内でも内乱が起こっていた。王宮の至るところから、大きな悲鳴と叫び声が聞こえてくる。
「どういうことだ! 何が起こっているというのだ」
 ガラフは声を張り上げる。今、王宮に残っている4将は自分1人であった。
 憎きカルバートは地下牢につながれている。それなのに、彼の軍の兵士達が王宮 で反旗をひるがえしたのだ。その先頭に立っている人物の名前を聞いて、ガラフは驚き に目を見開く。
「ブラッド殿下だと!」
 カルバートの兵士達だけではない、自分の軍の兵士までもがどんどんと寝返っていく。 それほどまでにブラッドの存在が大きい、という事なのだろう。
 ガラフは自分の執務室へ と逃げ込んだ。扉に鍵をかけ、机や椅子で扉を塞ぐ。
「冗談じゃない・・・・・・私はハーディス様の味方でも誰の味方でもない。自分だけが生き残れれ ばそれでいいんだ」
 ガタガタと震えながら、両手で耳を塞ぐ。どちらが勝とうが負けようが自分には関係ない。 勝った方に従うだけなのだから。すべては副将に責任を押し付けて・・・・・・。

「カルバート殿は地下につながれているそうです。俺が救出に行きます」
 カインの言葉にアランが頷く。
 昨日カインがアルハントに戻ると、アランは自分が応援に行くと言い出した。もちろん ジェイルは強く反対した。一国の王が、なぜそのような危険な場所に赴くのだと。
 しかし、ここ数週間おとなしく執務をこなしていたアランは、 決して折れなかった。断固として自分が行くと言い張り、反対を押し切ったのだった。 レガレスにいたっては、いつもの事だろうと諦めた顔を浮かべていた。
「分かった。私とジルはこのまま玉座へと向う。ブラッド殿下は、兵士達の方をお願いします」
「いえ、私も行きます。この場はディラードに任せておけば大丈夫でしょう」
「しかし・・・・・・ハーディス殿はあなたの弟君です」
「だからです。私はあの子を救いたい、救えるのは私しかいないのです」
 ブラッドの瞳は真っ直ぐに、玉座のある方向を見据えていた。その決意の強さにアランは頷く。
「では行きましょう。ご自分の身はご自分でお守り下さい」
「もちろんです。こう見えても私は、弟と同じ師に剣を教わっていましたから」
 2人は目を見合わせると走り出す。ジルもその後ろから続いて行った。



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