○●第4話−(4)●○




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「やっぱりその赤い刀身が、《赤い闘神》の由来なのかい?」
 カルバートの問いに、ジルは真っ赤な顔で首を横に振る。いつの間にか呼ばれていた その名前の由来は、彼女自身も知らないのだ。
「ちょっと剣を見せてもらってもいいかな?」
「はい」
 ジルは自身の剣を、鞘ごとカルバートに手渡した。カルバートはしばらく眺めた後、 その剣を引っ張ってみる。しかしどれだけ力を入れても、 その剣を鞘から抜く事はできなかった。
「抜けない・・・」
「えっとー・・・その剣は、僕にしか抜けないらしいんです」
「そうなのかい?」
 カルバートは驚いた顔で、その剣に視線を落とした。隣りにいたカインもその剣を覗き込む。
「ジル、ちょっとこの剣貸してくれ」
「えっ? ・・・はい、どうぞ」
 カインはその剣を受け取ると、静かに目を閉じた。そして同じように引っ張ってみたが、 やはり鞘から抜くことはできなかった。
「カインさん?」
「・・・何かの魔術がかけられてるな。なぜ今の今まで気がつかなかったんだ、 俺ほどの魔術師が!」
「はぁ・・・」
「そういえば、出会った時に言ってたよな。自分しかこの剣を抜くことができないって。 それで、この剣の呼ぶ声を求めて、旅をしていたって・・・」
「そうなのか?」
 どうやらデコーズは知らなかったらしい。カルバートは、静かに彼らの会話に聞き 入っている。
「この剣の記憶・・・覗いてみるか?」
「えっ! できるんですか!!」
 ジルが驚いた顔で叫ぶと、カインはそれに頷く。
「これにかけられているのは、光の魔術だな。精霊に呼びかければ、光の記憶を映し 出すことができる。やってみるか?」
「はい!」
 カインはもう1度頷くと、静かに目を閉じた。ジルは拳を握り締めながら、 じっとカインを見つめる。その顔には、緊張が浮かべて。

【光の精霊シャイナよ、この剣の記憶を今ここに映し出せ】

 真っ白な光が辺りを包み込んだ。ジルとデコーズ、カルバートそしてカインの4人は、 その光の中に居た。それは温かく心地よい光。ジルは、キョロキョロと光の 内側を見渡している。
 やがて光の中心に、3人の見知らぬ男女の姿浮かび上がってきた。実体のないその体は、 透き通っている。
 1人は黒い髪に長身の男性。年は35歳前後だろう。その人物は、彼らの良く知る人物に そっくりだった。そう、アランその人に。腰にはジルの持つ長剣を携えている。
 その隣りに立つのは、長い銀色の髪を首筋で結んだ男性。その瞳の色は青・・・恐らく、 歴代のマスターなのだろう。やはりカインやジェイルとよく似た面影がある。
 そしてもう一人は、美しい女性だった。太陽のように赤い髪を腰まで流し、 男性の着衣を身に着けている。年は20後半だろう。その女性はまるで、ジル その人が成長した姿だった。

 剣の記憶である3人は、ゆっくりと動き始めた。

「これでこの剣は、ソニア、君と・・・アルハントにしか抜くことができない」
 銀色の髪の男性の言葉。アルハントという言葉に、カイン達は顔を見合わせる。 その名前はそう、アルハントの建国者その人の名前。アランと同じ姿を持つ男性は、 確かにその名前で呼ばれたのだ。
「いつの日か・・・君たち2人の魂が生まれ変わった時の目印になるようにね。 悠久の時を超えて、いつか2人が巡り合えた時は・・・その時こそは、必ず幸せになって欲しい」
 銀色の髪の男性はそう言うと、穏やかに微笑んだ。
「生まれ変わったその時も、必ずあなたを見つけるわ」
 溢れる涙を手で抑えながら、その女性は微笑んだ。その目線の先には、アルハントがいる。
「その時こそは、ソニア・・・君を2度と放さない。必ずまた、私達は巡り会う」
 3人はそのまま体を寄せ合うと、固く握手を交わした。そしてソニアと呼ばれた女性は、 歩き出した。振り返ることなく、真っ直ぐに丘を下って行く。その姿を見守る2人の男性。
「ジーク・・・お前もソニアの事を・・・」
 アルハントが尋ねた。しかしジークと呼ばれた 銀髪の男性は、彼女の背中を見つめたまま、何も答えなかった。 恐らくそれは、肯定なのだろう。
 そして光の記憶は、ゆっくりと消えていった・・・・・・。

「これは・・・」
 しばしの沈黙の後、口を開いたのはカインだった。ジルはただ茫然と、 光の中心だった場所を見つめている。デコーズとカルバートも、驚きに目を見開いていた。
「アルハント建国史は事実だったのか・・・。あの銀髪の男性の名は、 ジーク・クラーク。初代《マスター》であり、アルハント・グリンフィード様の腹心、 そして親友だったと伝えられている。女性の方は恐らく、《赤い女神》と呼ばれたその人で はないだろうか・・・」
 デコーズの言葉に、カインが頷く。ジルは何も知らないらしい。そういえば以前、 歴史書を見せてもらう約束をして、そのままだったのを思い出す。
「それなら俺も知ってるぜ。《赤い女神》は初代《マスター》と共に、アルハントに 勝利をもたらした、と。しかし彼女は、建国と同時に突然姿を消した・・・。名前はどの歴史書 にも記されていなかったが、どう見てもあれはジルと関係あるよな?」
「えっとー・・・」
 彼女は首をかしげた。
 ジルの家は、アルハントの国境近くの小さな村にある。どこにでもある普通の家庭だった
 ジルの父は元々、傭兵の仕事をしていたそうが、結婚してその村に移り住んでからは、子供達に 剣を教えていた。祖母は赤い髪をしていたそうだが、彼女の父も兄達も普通の黒髪だった。
 ジルの父親はこの長剣について、何も知らないと言った。 ただ、ローランズの子孫に受け継がれている、大切なものだとだけ。恐らく、 何も知らないというのは本当だろう。 アルハントの建国当時といえば、400年以上も昔の事になるのだから・・・。
「レガレス様と親父が何か知ってるみたいなんだろ?帰ったら聞いてみようぜ」
「はい!」
 ようやく自分が導かれた運命の真実が分かるかもしれない。ジルは強く剣を握り締めた。 ソニアと呼ばれた赤い髪の女性。彼女の視線の先にいた、アランそっくりの男性・・・アルハント 初代国王、 アルハント・グリンフィード。会話からすると、2人は恋人同士だったのだろうか? なぜ2人は離れ離れ になったのだろうか? ジルは、以前のレガレスの言葉を思い出す。

【その剣は、アルハント様が最愛の女性に贈った物なのだよ】

 ふと見ると、デコーズが何かを考え込む仕草をしている。カインが不思議そうに 首を傾げた。
「どうしたんだ、デコーズ。何か知ってるのか?」
「いや、ジェラルディンはあと10年もすれば、あれほどの美女に成長するのだな、と思ってね」
 彼はいたって真面目な顔でそう答えた。一同はがっくりと頭をうな垂れた。


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