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1曲が終えた頃には、その人だかりは倍にも膨れ上がっていた。カインは
汗を袖で拭うと、その場で優雅に一礼する。その瞬間、辺りからは大きな拍手と歓声が上がった。
言うまでもない、大成功だった。
そこへデコーズが一歩前へと歩み出る。
「はじめまして、ザラスの皆様。我々は国から国を渡り歩く旅の一座です。先程この町に到着したばかり
の新参者ですが、どうぞ心行くまで舞をご堪能下さい」
そう言うと彼は、スッと一礼した。なんとも優雅なその姿に、女性達がうっとりと魅入っている。
アラン達は、「まさに役者だな、この男は」 ・・・・・・心の中で呟いた。
途中何度か休憩を入れながらも、夕方までその舞は続いた。その間、一度たりとも人だかりが
途切れる事はなかった。苦しい顔を必至に隠しながら、カインは踊り続ける。最初の頃は少しぎこ
ちなかったその舞も、気がつくと自然なものへと変わっていた。
さすがはカインである。
やがて終了を知らせると、辺りからは1番の盛大な拍手と歓声が上がった。
彼らにしてみれば、まるで夢の中にいるようなひと時を過ごす事ができたのだから・・・。
人だかりの中から、1人の男性が歩み出る。痩せこけた初老のその男性は、
ニコニコと微笑みながら、彼らの前で立ち止まった。
「心から感動致しました。もし宜しければ、今晩は我が家に一泊されませんか。
たいした所ではありませんが、精一杯の料理とお酒をご用意します」
その言葉に、一同は顔を見合わせる。よく見るとその男は、上等な服を身につけていた。
もしかしたら、ザラスの貴族の1人なのかもしれない。アランがデコーズに目線を送ると
、彼は小さく頷く。
「それではお言葉に甘えまして、お邪魔させて頂く事にします」
その男性の屋敷は、町の北のはずれに建てられていた。馬車から降りた一同は、
想像以上に大きなその屋敷に、思わず息をのむ。
「どうぞこちらです」
男性はにっこり微笑むと、4人を屋敷の奥へと案内する。途中、ホールの端に黒い鎧
が飾られているのを見つけ、アランとカインが顔を見合わせた。
4人が案内されたのは、大きな応接間だった。見事な装飾とその豪華さに、
ジルはきょろきょろと部屋を見回している。アラン達は老人に促され、ソファーに腰掛けた。
「驚きました、見事な・・・お屋敷ですね。あなたはザラスの名門貴族のお1人なのでしょうか」
デコーズの言葉に老人は小さく笑うと、首を横に振った。
「そんな大層なものではございません。私は、元4将の1人で、ジョーゼフ・ラジェスタ
と申します。と言っても、今は息子に全てを委ねて、隠居の身なんですがね」
「4将!」
4人が声を揃えた。
「おやおや、そんなに驚かれなくとも。旅の方々でも、ザラス4将の事をご存知だったとは・・・
そちらの方が驚きですよ」
コンコン、という音が聞こえ、応接間の扉が開く。廊下からは、お茶のトレーを押した小柄な女性
と、1人の男性が入ってきた。
「ああっ!!」
ジルは立ち上がると、その青年を指差す。青年の方も目を大きく見開いて、彼女達を見
つめていた。アランもその青年を見て、茫然とした表情を浮かべている。
「あんた達・・・なんでここにいるんだ! 」
カルバート・ラジェスタは、彼らを指差して叫ぶと、次の瞬間大きな声で笑い出した。
「あなた、お知り合いですの?」
隣りに立つその女性が尋ねる。カルバートは口を手で抑えながら、コクコクと頷いた。
ジョーゼフも驚いたらしい、ぽかんとした顔を浮かべている。
ようやく笑い終えたカルバートは、
父親ジョーゼフの隣りに腰掛ける。
「なんであんた達、そんな格好してんだ?思わず笑い出してしまったじゃないか」
「わ・・・我々は旅の一座だからだ」
アランが青ざめた顔で答える。するとカルバートはまた、大きな声で笑い始めた。
「別にいいんだけどね。まあ・・・似合ってるんじゃないかな、その格好も」
そう言うと彼は4人をゆっくりと見渡す。そして、ジルのところで彼女と目を合わせると、
ニヤリと微笑んだ。
「カルバート、お前この人達と知り合いなのかね?私は先程町を歩いていた時、こちらの舞
姫殿の美しい舞いに魅了されてね。そのまま屋敷までお連れしてしまったのだが・・・」
「へえ、後で僕にも見せてくれるかな。できればそちらの美女ではなく、こちらの可愛いお嬢さ
んの舞をね」
その言葉に、ジルが真っ赤になってうつむく。
お茶を配り終えた女性は、カルーバートの隣りに腰掛けた。決して美人というわけではないが、
どこか温かい印象を与える、優しげな女性だった。
「こちらは僕の最愛の奥さん。フレア・ラジェスタ」
「よろしくお願いします」
フレアはペコリと頭を下げた。
「昨日ガディアスで、また会えるかも・・・と言ったのは僕だけど、まさか翌日に自分の家
で会うなんて、思ってもみなかったよ。本当に面白いな、あんた達」
「ガディアス?」
ジョーゼフが呟く。カルバートはそれには答えずに、目の前のアランを指差した。
「なんとなんと!こちらのお兄さんが、ウチの副将軍を軽々と打ち負かしちゃったんだよ」
「ほう、それは凄いな。ディラードは、あれでも剣の腕だけは、ザラスでも5本の指に入る
腕前だと言うのに」
ジョーゼフが感嘆の声を上げた。もはや・・・彼らをただの旅の一座だとは、到底信じて貰えない
だろう。
「えっと・・・そのー・・・」
あのデコーズでさえも、今の状況に口ごもる。
「ああ、気にしないで下され。あなた方が何者であろうとも、我々は構いませんから」
今度はジョーゼフが言った。果たしてこの親子は、これでも本当に4将の家系なのだろうか・・・
アラン達が呆気にとられた顔で見つめる。
フレアが、隣りに座るカルバートの手を引っ張る。
「夕食の支度に行って参りますね。今日は私が腕を振るいますわ。せっかく素敵なお客
人がいらっしゃってるのですもの」
そう言って彼女は、にっこり微笑んだ。
「君の手料理を食べさせてもらえるのかい。彼らもなんて幸せなんだろうね。僕も楽しみにし
ているよ、フレア」
カルバートはそっと彼女の頬に口付ける。フレアは小さくお辞儀をすると、
応接間を後にした。
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