○●第2話−(2)●○




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 ミネルバとデコーズの2人は、町の混乱を静める為に駆け回っていた。
 どうやらカインが上手く火を消してくれたらしい。眩しい閃光が輝いた後、 辺りからは一瞬にして、火の粉が消えていった。しかし1度混乱してしまった以上、 ミネルバがどれだけ声を張り上げたところで、逃げ惑う人々の耳には届かない。 彼女はギュッと拳を握り締めた。
「諦めるなと言っていたでしょう、陛下は」
 背後からかけられたデコーズの声に、彼女は頷く。
「セドリック殿・・・だったな。貴公は魔術を使えるか」
 ミネルバからの質問に、デコーズは一瞬眉をしかめる。彼女は後ろを振り返らなかった為、 それには気がつかなかった。
「まあ基本的に、私に不可能な事などないな」
「そうか。実を言うと私は、初歩の転位魔術程度しか使えぬものでな。もしできるなら、 私の声を町中に届けたいのだが」
「・・・それならば任せてくれ」
 ミネルバはホッと胸を撫で下ろすと、デコーズへと振り返った。彼は足を止め、 呪文を唱え始める。

【風の精霊ウィンディよ、その自由な風に乗せてわが言葉を届けよ】

 その呪文の発動と共に、彼の周りには小さな風が巻き起こる。ミネルバはその風の中 に踏み入ると、口を開いた。
「《ノース》の者達よ、私の声を聞いてくれ。私はガディアス国第一皇女、ミネルバ・ガディアス である」
 その声は風に乗って、町中へと響き渡った。辺りからガヤガヤとざわめきが起こり始める。 そして彼らは声の主を探す為、一斉に立ち止った。
「炎は既に鎮火している。もう心配する事はない。皆は1度、町の北にある丘の上に集まってくれ」
「急がず、ゆっくりとな」
 彼女は最後にそう付け加えた。
 町の者達は、ガディアス王家からの言葉に、安堵の声を上げる。そして彼らは、 町の北に向って歩き始めた。
 やがて魔術で起こしていた風が収まっていく。
「セドリック殿、助かった・・・ありがとう」
「いや、それよりも・・・私が魔術を使った事を、アルハントの者達には内緒にしておいて貰えるかな」
 そう言ってデコーズはにっこりと微笑んだ。ミネルバは首を傾げる。
「はあ・・・まあ、構わないが」
 彼女はそれ以上は詮索しない事にした。そしてミネルバとデコーズの2人も、 町の北へと向って歩き始めた。

 ザラスの兵の数は、予想よりも少なかった。その数はおよそ50名程度。
 何者か(カイン)によって火が鎮火した後、彼らは皆、町の中央に集まっていた。 そして彼らは、町の者達を襲うでもなく、その場でのんびりと傍観を決め込んでいる。 恐らく町を焼き払う事だけが目的だったのだろう。ミネルバからは、ザラスが傘下を断った一国に、 《大量虐殺》を行った・・・と聞いていた為、予想外ではあった。もしかしたら、 この指揮を取っている人物が、よくできた人物だからなのかもしれない。放火をしておいて、 よくできた人物・・・もないのだが。
 ジルとアランの2人は、彼らからほんの50メートル程離れた場所で立ち止まった。 そしてアランは、ザラスの騎士達に向って叫ぶ。
「ザラスの兵達よ、今すぐここから立ち去れ!さもなくば、我々が相手になる」
 凛と澄んだ声が響き渡る。彼らは一斉に、声の方へと振り向いた。そして、 がやがやとざわめきが起こり始める。
 しばらくすると、彼らの中から1人の男性が歩み出た。その男性は、先日グレイシスの屋敷 で出会った男とは違っていたが、よく似た黒い鎧を身につけている。その黒い鎧に血のように 赤いマントをひるがえし、アラン達の元へと歩いてくる。年は35歳ぐらいであろうか、 彼のその無骨な顔立ちに、無精ひげが良く似合っていた。堂々としたその物腰から推測すると、 恐らく騎士長・・・あるいは将軍クラスなのかもしれない。
「初めまして。私はザラス4将の1人、カルバート・ラジェスタと申します。貴公は見たところ、 東の民ではございませんな。宜しければお名前をお聞かせ願えますか」
 男は獲物を狩る鷹のような鋭い目で、アランを見据えていた。 並みの者ならば、その視線だけで震え上がるであろう。
「すまないが・・・名前は名乗れない。通りすがりの旅の者とでも思ってくれ」
 アランの返答に、男はフンと鼻を鳴らす。
「旅の優男さん、よしければ勝負頂けますかな。それとも隣りの坊ちゃんが相手になるか?」
 辺りから、大きな笑い声が起こった。 男のその冷やかしに、アランは全く動じた様子はない。そして、返事の代りに剣を構えた。
「ジル、下がっていろ」
「はっはい」
 ジルは2人から20メートル程後ろに下がった。
 彼らは剣を構えたまま、静かに見詰め合う。 そして数十秒ほどすると、カルバートの方から斬りかかっていった。
 カルパートの剣を受けたアランの剣は、重く鈍い音をたてる。並みの剣ならば、 この一撃だけでヒビが入っていただろう。それほどの豪腕だった。そして、 スピードもなかなかに速い。
 アランは一瞬顔を歪ませたが、すぐに構えを直す。そして連続して降り注ぐカルバートの剣を、 いとも 軽々と交わしていく。カルバートの剣は、 受けるには重過ぎるが、アランならば十分に避けきれるスピードだった。
 気がつくと、ザラスの騎士達が2人の周りを取り囲んでいた。彼らの間からは、 アランへの感嘆の声が上がっている。それもその筈、カルバートの実力からすれは、 一国の剣豪として相応しい程 の腕前である。相手がこのアラン・・・もしくはジルでさえなければ、の話だが。
「あんたの連れ、あれは何者なんだ?」
 気がつくとジルの隣りには、ザラスの騎士が1人立っていた。 2人に夢中になっていたせいでもあるが、その気配に気がつかなかった事に、 ジルは青ざめる。しかしどうやら彼は、ジルと剣を交えるつもりはないらしい。 人懐こい顔を浮かべながら、彼女の顔を覗き込んでいた。
「えっとー・・・」
「あっ、言いにくいのなら別にいいよ」
 そう言って彼はにっこりと微笑んだ。その青年は、年は25歳程だろうか。 褐色の肌に日に焼けた赤茶の髪・・・なかなかに整った顔をしていた。身長はあまり高くないらしい、 靴の底を入れても175センチぐらいだろ。カルバートと名乗った男と同じように、 黒い鎧に赤いマントを身につけていた。
「あれー、もしかして君、女の子でしょ?」
 その言葉にジルはギクリと体を強張らせる。
「えっと・・・はぁ・・・」
「可愛いなあー、僕に奥さんがいなかったら攫って帰るところなのに・・・残念。 でもまあ、君と闘っても勝てなさそうだしね」
 そう言って彼は、ニヤリと笑みを浮かべた。ジルはこの不思議な雰囲気の男性に、首を傾げる。
「ほら、決着がついちゃったよ」
 彼が指した方向を見ると、アランがカルバートの首筋に剣を寸止めしている姿だった。 息の上がっているカルバートに比べ、アランの方は余裕の表情を浮かべている。
 その瞬間、ザラスの兵達の間から、大きな歓声が上がった。



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