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5人が辿り付いたその場所は、見渡す限り壮大な緑の草原が広がっていた。
気候の違いなのだろう、ガディアスの空気はアルハントに比べ、
幾分か湿度が高いように思える。秋から冬に変わる少し肌寒い風に、
ジルはブルっと身を震わせた。
「ここは一応ガディアスだと思うんですが・・・分かりますか? 」
カインの質問にミネルバが頷く。
「ここから西に30分程歩けば、《ノース》という町に出る。
そこから馬車を拾えば、2時間程で王都に辿り着くだろう。魔術で移動するか?と言っても
私の魔力では、5人1度に転位するのは無理なのだが・・・」
「いや、馬車を使おう。他国へ訪れるのは初めてなものでな。ゆっくり見て回るのも悪くない
だろう」
アランの言葉にミネルバが微笑む。ガディアスは小国ではあるが、緑豊かな美しい国である。
ミネルバは、この国の皇女として生まれた事を、何よりも誇りに思っていた。
だから、アルハントの王・・・いや、アンドリュー・グリンフィードその人に、
この国の素晴らしさを伝えたかった。
「そんなにキョロキョロして、どうしたんだい?ジェラルディン」
デコーズが不思議そうに彼女の顔を覗き込んだ。
「えっと・・・何か煙の匂いがするような気がして・・・」
その言葉に一同は、ハッと辺りを見渡す。すると、遠方から煙が上がっているのが見える。
「《ノース》の町!まさか・・・ザラスがもう我が国に!」
ミネルバが叫んだ。カインはすぐに呪文を唱え始める。
【風の精霊ウィンディよ、そのどこまでも自由な羽で我らを遠く目的の地まで運べ】
5人は町の入り口へと降り立った。
《ノース》の町のいたる処から、火の粉が上がっている。
町中から、女性や子供達の大きな悲鳴が鳴り響く。
そして逃げ惑う人々で、大きな混乱が起きていた。
人為的ではないこの火の大きさからすると、恐らく魔術師も関与しているのだろう。
目を凝らすと町の人々の中に、黒い甲冑で身包んだ騎士達の姿が見える。
「あれは・・・ザラスの・・・」
ミネルバが青ざめた顔で呟いた。その黒い甲冑に、アランとカインが目を合わせる。
「あの黒い甲冑は、ザラスのものなのか?」
「あ・・・ああ、間違えない。まさかもう、この《ノース》にまで迫っていたとは・・・」
ミネルバは頭をうな垂れ、その場にしゃがみ込む。そして、
彼女の目からは涙が溢れ出した。
「何もかもが遅かったのか・・・」
背後から肩を叩かれ、彼女はハッと顔を上げる。
目の前にはアランの姿があった。
「うつむいて泣いてる場合じゃない。王族ならばどんな時でも、民衆の為に1番
すべき事を考えろ。お前が下を向いていたら、彼らは何を信じればいいんだ」
そしてアランは、彼女にスッと右手を差し出す。
「もっともこれは、カインの受け売りなんだがな」
そう言ってアランは小さく笑った。彼女はそれに頷くと、彼の手を取り立ち上がった。
「私が町の者達を誘導する。マスター殿、申し訳ないが・・・火の鎮火を頼めないだろうか」
「お安い御用です」
カインが頷いた。
「では、私とジェラルディンも民衆の誘導に協力しよう。陛下は・・・ザラスの連中を
なんとか片付けて下さい」
デコーズのその言葉に、カインは唱えていた呪文を止める。
「おい!何でお前さんが陛下に命令してんだ?しかも1番危ない役割を」
「考えてもみたまえ。ジェラルディンは女の子だから危ないし、私は見るからに肉体派ではない。
とすれば、陛下と君が戦闘を担当するしかあるまい」
デコーズは、自信に満ちた顔でそう答えた。彼のその意見に、一同は思わず首を傾げる。
間違ってはないものの、どこか釈然としないような・・・。
「まあいい。ザラスの騎士達の事は私に任せてくれ」
アランは、腰の剣を引き抜いた。カインは、やれやれと呪文に戻る。
「あのー、僕も手伝います。大声を出すのは苦手なんで、誘導とかはあまり・・・」
そう言うとジルは、アランの隣りへと歩み寄る。
そして2人は目を見合わせると、町の中に向かって走り出した。
残されたミネルバは、不安な表情を浮かべてデコーズを見上げる。
「ジルさん、あんな小さな女の子なのに・・・大丈夫かしら」
「ああ、彼女ならば心配いらないよ。私の妻となる女性は、大陸一の剣豪でもあるのだからね」
そう言ってデコーズはにっこりと微笑んだ。彼女は訳が分からずに、首を傾げる。
「とにかく、我々は町の者達を誘導しよう」
「ええ」
2人はアラン達に遅れながらも、町の中へと走り出した。
そして、この場に残っているのは、カイン1人となった。
【水の精霊マリッドよ、その清らかなる水のベールで炎を包み込め】
カインは、完成したその呪文を唱えた。すると町の上空に、どこまでも澄み切った水の膜が
浮かび上がってくる。そしてその水の膜は、薄いベールのように広がり、町をすっぽりと覆い尽く
した。やがてそれは無数の水滴となり、勢い良く炎へと降り注ぐ。
カインの呪文で、炎の勢いは一瞬弱まったかのように見えた。しかし、
しばらくするとまた、炎はその勢いを増していった。
「うーん・・・いくら俺様の魔力でも、やっぱり水の精霊の力じゃイフリートには適わないか」
カインは目を閉じ、意識を集中する。
【炎の精霊イフリートよ、我の求めに従いこの炎を消し去れ】
その呪文が放たれた瞬間、赤く眩しい閃光が町を照らす。そして次の瞬間、
20箇所以上もの場所から上がっていた炎は、一瞬にして鎮火していた。
「そうそう、言う事を聞いてくれればそれでいいんだよ」
そう言ってカインは、満面の笑みを浮かべた。
ちなみに今唱えた魔術というのは、カインによる完全なるオリジナルである。
いやむしろ、カインが自身の絶対的な魔力で、この場にいる炎の精霊達に命令したと言った方が
早い。姿形を持たない精霊達は、一般的に意思を持たない。彼らはいつも大気の中に存在し
、魔術師の呼びかけに応じて力を貸す。魔力のより大きい者へと従う彼らにとって、
《マスター》の命令こそが絶対なのだ。
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