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もう一人、《マスター》と呼ばれる青年がここにいる。これは、当代一の
魔術師に贈られる称号である。
この世界では、魔術師というのはそう珍しくも無い。ある程度の潜在的
な魔力は誰にでも眠っており、数年真剣に学べば、日常で役に立つ程度
の魔術であれば、ほとんどの者が身につけられる。ただし、魔術を学ぶ
為には、師が必要である。魔術師には偏屈者が多く、滅多に弟子を取ら
ないものだから、剣を学ぶ者に比べてその数は圧倒的に少ない。
カインの場合、代々《マスター》の名を引き継ぐ、ズバ抜けた魔術師の
家系であった為、1年前に父親からその名を継いだ瞬間から、魔術師では
最高の地位さえも譲り受けた。クラーク家の魔力には並ぶものがおらず
カイン自身も、その名を受け継ぐに値する立派な実力の持ち主ではある。
しかし問題は、その性格と行動であった。23歳になった今では少し
落ち着いたが、その昔。やんちゃ、などという
言葉では表せないぐらいの暴れっぷりで。町に出れば、その銀色の髪を
からかう同世代の子供達を家ごと吹き飛ばした事も数知れず。宮廷魔術
師であった父の仕事上、宮廷の中で育った彼は、先代国王のお気に入り
であった美しい庭園を一瞬にして炎の魔術で灰にした事さえもある。
理由は、「肌寒い日だったから、少し温まろうとして」・・・・・・と。
これには温厚な先代国王でさえも、一日怒り狂ったという。
それ以来カインは、宮廷魔術師となった後も、先代国王の言いつけで
給料を使用人程度の薄給しか与えられていない。自業自得ではあるの
だが・・・・・・。
そして、国中の人々は
「今代の《マスター》は、史上最悪の破壊者である」
と噂している。この王都に至っては、子供が駄々をこね始めるとその母親は、
「いい子にしてないと、《マスター》が襲いにくるよ」
と言って子供をなだめる程である。
そしてもう一人、アランという青年もまた、この二人に負けないぐらいの
人物である。それは後ほど分かるであろう・・・・・・。
*
路地に出た三人は、とりあえず一息つける場所を見つけて腰を下ろした。
『一体何者なんだろなぁ、この二人。絶対一般人じゃないような・・・・・・』
ジルはまじまじと二人を見つめていた。2年と短い間ではあるが、世界中
を旅している彼は、道中たくさんの人々を見てきた。だがこの二人は、
出会ったどの人間ともどこか違う印象を受ける。
ジルの視線に気づき、カインがにっこりと微笑んだ。
「いやぁ、感激だなー! いつか会いたいと思ってた《赤い闘神》に、
まさかこの町で偶然出会えるだなんて!」
すっかり目が輝やいている。
「はぁ・・・・・・」
そんな大層なもんじゃないです、とジルは真っ赤になりながら頭を掻いた。
「俺、これでも一流の剣士を目指してんだぜ? 3日前からな」
「3日前って・・・・・・でも、あなたは確か魔術師なんじゃ?」
「あー魔術ねぇ。何ての? 才能っていうか、天才っていうか、俺ってば
たいした努力もしないで、世界最強だったりするんだよな」
「はぁ・・・・・・」
「それに魔術と聞くと、何だか陰気臭いイメージ持たれるしさ。そう、い
つも真っ黒なフードを被ってる感じな。それに比べたら、剣士の方が
格好いいだろ? なんせ、でっかい剣を振り回して敵をなぎ倒すんだから
な」
正しいような、どこか間違っているような・・・・・・カインはこの自己流解釈な
わけの分からない理論を、胸を張って語り続けている。
「その辺にしとておけ。どうせお前に剣の才能なんて、道端の石ころ程もない
んだからな」
「 ! 」
カインはアランの一言に絶句し、ようやく静かになった。
「ところで、お前は旅をしているそうだが。これからすぐまた、この町を
出るのか?」
アランが尋ねると、ジルはのんびりと首をかしげる。
「うーん、ついさっきこの町に着いたばかりですし。実は、路銀も底をついてしま
ったので。
ここは大陸でも大きな町だし、何か仕事を見つけてしば
らく滞在しようかと思ってます」
『一応、旅の目的地だし』
ジルが心の中で呟いた。
アランとカインは顔を見合わせ、ニヤリと微笑んだ。
「それはいい事を聞いた。ちょうどいい、俺達が仕事を依頼しよう」
「ええっ!!」
ジルは思わず叫び声を上げた。この二人とは、ついさっき出会ったばかりなのである。
その反応にはお構いなしでアランが続ける。
「報酬はそこらの倍は出すぞ。ついでに寝床と食事も用意しよう」
「うっ」
条件はすこぶる良い。この町に着いたばかりで、思わぬ幸運である。
「しかも、町の人には感謝され、自分も幸せ、誰もが幸せだぜ?」
カインが人差し指を立てながら口を挟むと、余計な事を言うな、とアラン
が小突いた。
「はあ?」
『つくづく妖しいんだよな、この二人って。一体何者なんだろ・・・。まあ、
どうせこの町には《あの人》が見つかるまで滞在しなきゃならないんだ
し、その間この二人といれば楽しそうだなあー・・・・・・』
ジルは10秒程物思いにふけると、「うん!」と元気良く頷いた。
「どうせアテもないんで、お二人についてきます」
その返事を聞き、アランとカインは宙で右手をパシンと合わせて喜んだ。
「えっと・・・・・・お役に立てるか分かりませんがー・・・・・・」
ジルはそう言って真っ赤になってうつむいた。
「それと、大した謝礼は出せないんだけど。ついでに、俺に剣を教えて
くれないか」
「それは無謀だから諦めろ」
調子に乗ったカインを、アランが制した。
「さっそくだが、日が暮れたら活動開始だ」
アランの一言に、カインの顔から笑顔が消える。
「えっと・・・・・・僕は一体何を手伝えばいんでしょうか?」
不安そうにジルが尋ねた。二人はそれに、いたって真剣な顔で答える。
「人身売買ブローカーへの囮潜入捜査」
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