○●第1話−(1)●○




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 グレイシスの屋敷での一件から、丸1週間が経過していた。
 黒い鎧の男、並びにエルマという魔術師についての情報の手がかりは、 全く掴めないでいる。彼らは一体どこからやってきたのか、何が目的なのか・・・。
 ワイズはあの日からずっと、宮廷内の一室で療養している。
 疲労は魔術で癒すことができる。しかし、心労はそういう訳にはいかない。 自分で乗り越えるより他にはないのだから。

「あまりに手がかりが少なすぎます」
 カインは拳を強く握り締めた。この1週間、苛立ちと焦りだけが募っていく。
「叔父上から話が聞けるようになれば良いのだが・・・」
 アランは大きなため息をついた。
 コンコン、と執務室のドアを叩く音に、2人は会話を止めた。
「失礼します」
 扉が開き、ジェイルが入室して来た。いささか複雑な表情を浮かべている。
「どうしたんだ、親父?」
「ああ、お前もいたのか」
 ジェイルはそのままカインの隣へと座った。そして大きなため息をつく。
「それで、何かあったのか」
「陛下・・・。実は今、謁見の間にガディアスからの使者が尋ねて来ておりまして」
 その言葉に、アランとカインの2人が顔を見合わせた。
「ガディアスと我が国は、交流がない筈であるが。なぜ突然・・・」
 アランの言葉にジェイルが頷く。
 《ガディアス》とは、大陸の東に位置する小国である。 《アルハント》からは馬を用いても、ふた月はかかる距離にある為 、交流は殆ど無いに等しい。
「使者が申すには、アルハントと同盟を結びたいとの事なのですが」
「同盟だと?ガディアスは確か、東の軍事大国である《ザラス》 と親密だった筈だが。それをなぜこの時期に、遠い我が国と・・・」
「それについては、陛下への謁見を申し出ております。 それに、ガディアスの第一皇女自らが使者として参られている以上、 お会いするより他にあるますまい」
 ジェイルの言葉に、アランはハッと顔を上げる。
「王族自ら参られているのか!それ程の事情・・・という事なのか・・・」
「ちなみに、なかなかの美女でしたぞ」
 ジェイルがニヤリと笑みを浮かべる。アランはそれに、ウンザリした表情を浮かべた。
 戴冠式からこの1ヶ月、各国並びにアルハント中の貴族から、 毎日のように婚姻話が舞い込んで来ている。アランはそれに目を通すことさえも拒否し、 全ての処理はジェイルに一任していた。なぜなら、名高い美女や大国の皇女さえも、 彼にとっては何の興味も無い対象だったからだ。《アルハント》程の大国であれば、 政略結婚などというものは、全く必要ない。その逆からすれば、是非にでも 《アルハント》と・・・なのだろうが。
「とりあえず会おう。しばらしくしたら謁見の間に行くと伝えてくれ」
「承知しました」
 ジェイルは立ち上がると、執務室を後にした。
「しかし・・・ガディアスとはな・・・」
 アランが呟く。カインはそれに首を傾げた。
「アランの戴冠式から、まだ1ヶ月余りだというのに・・・ 何でこんなに事件ばかり起こるんですかね?」
 アランは眉をしかめると、目の前のカインを睨み付ける。
「じっ冗談ですよ・・・」

 アランが謁見の間に着くと、1人の女性が頭を垂れたまま待機していた。
 女性でありながらも、彼女が身に付けているのは真っ白な鎧だった。紺色の マントが映え、なんとも美しい。 そして長い黒髪は、後ろで1つに束ねている。
「頭を上げて下さい。王族同士となれば、そうかしこまる必要もないでしょう」
「はい」
 アランの言葉に、彼女は頭を上げた。ジェイルの言った通り、 なかなかの美女である。少し褐色の肌が健康的で、アルハントの民とはどこか違う印象を与える。 そしてそのすらりとした長身は、アランと並べばさぞ絵になるであろう。 しかし、さすがはアランである。これほどの美女を見ても、表情一つ変わる事はなかった。
「ガディアス国第一皇女、ミネルバと申します」
 そう言って一礼した彼女の頬は、ほのかに赤くなっていた。
「私はアンドリュー・グリンフィードです。遠路お疲れでしょう。 立ち話もなんですから、応接間の方へ案内します」
 そう言ってアランが微笑むと、ミネルバは頬を更に赤らめた。

 彼女が案内されたその応接間は、柱一本に至るまで豪華な装飾が施されていた。 手織りの絨毯、そして鮮やかなタペストリーに、思わず目を奪われる。 そして窓からは、色鮮やかな美しい庭園を見渡すことができた。
「さすが・・・大陸一の大国だな・・・」
 茫然とした表情を浮かべて、ミネルバが呟いた。彼女は思わず地が出てしまった事に、 ハッと青ざめる。
「どうぞ、いつものようにお話し下さい。俺も堅苦しいのは苦手でな」
 その言葉にミネルバは、ホッと胸を撫で下ろした。
「助かった。敬語はあまり得意じゃないんだ」
「私もだ」
 目の合った二人は、プッと吹き出した。



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