○●第7話‐(3)●○




*



「父を呼んで参ります。しばらく・・・ここでお待ち下さい」
 そう言ってワーレルは立ち上がると、応接間から出て行った。
「カイン、ジル、準備しろ」
「はい」
 3人はソファーから立ち上がった。取り残されたラングレーだけがソファーに小さくなって 震えている。
「おい、ラングレー」
 アランに名前を呼ばれたラングレーは、ビクリと体を強張らせた。
「この屋敷にはどれぐらいの人数の兵がいる」
「ひっひい」
 ラングレーはブルブルと頭を横に振った。
「素直に答えれば・・・お前の罪は軽くしてやらん事もないぞ」
「ほっ本当でしょうか!わ・・・私はただ、あの男に騙されただけなんです!!」
 ラングレーは必死に叫んだ。アランはそれに頷く。
「へ・・・兵は、今この屋敷に配備されているのは100名程だと思います」
「何だ、思ったより少ないな」
「ですが、数ヶ月前にワーレル殿が雇ったという、とんでもなく強い魔術師が一人おります」
「魔術師・・・」
 カインが呟いた。
「どんな男だ」
「いえ・・・女です。それも若い妖艶な・・・」
「うわっやりにくいな」
 カインは心底嫌そうに眉をしかめた。
「それと、叔父上・・・ワイズ・グレイシスは今どこに監禁されているんだ?」
「えっと・・・2階に上がって右の突き当たりの部屋です」
「ではジル、お前は叔父上を救出に2階に回ってくれ。1階は私が食い止める。 カインはその魔術師の相手を任せた」
「はっはい」
「・・・了解」
「それで、私は?」
 ラングレーが懇願の表情でアランを見上げた。
「死にたくなかったら、その辺に隠れていろ」
 その時、応接間の扉が勢い良く開いた。廊下から数名の騎士達が突入して来る。
「行くぞ!」
 アランとジルは腰の剣を引き抜くと、それを構えた。ジルはその尋常ではないスピードと 剣さばき、アランはその力強さと華麗な動きで、向かってくる騎士達を 次々と床に沈めていく。しかし、斬っても斬っても新たな者達が入り口から 突入してくる。
「アラン、ジル!入り口からどいててくれ!」
 カインが叫ぶと、アランとジルは左右に分かれて入り口から離れた。カインは唱え終えた 呪文を解き放つ。

【闇の精霊シェイドよ、その暗黒で全てを飲み込め】

 カインの得意魔法だった。その呪文と共に黒い闇が広がり、大きな爆音が響く。 闇が引いていくと、例のごとく目の前の扉とその周辺の壁数メートルが跡形もなく消し飛ん でいた。
 近くに居た騎士達は全員無傷でそこに立ち尽くしていたが、起こった出来事が信じられず茫然と 辺りを見渡している。
「ジル、階段は向こうだ、頼む!」
 アランは壁のなくなったその部屋から、廊下の左の角を指差した。
「はい」
 ジルはアランが指を指した方向へと駆け出す。そして、向かってくる騎士達を 軽々となぎ倒しながら、2階への階段に向かって突き進んで行った。
「死にたくなかったらどけ!でなければ加減はしない」
 ジルが叫んだ。  目の前の少女の鬼神のごとき強さを目の当たりにし、その冷ややかな双眸で睨まれ た騎士達は、思わず道を開ける。
「おい、お前達何をしている!そんなガキ一匹に怯むな!」
 吹き抜けになっている2階の廊下の手すり越しから、ワーレルが叫んだ。 その隣には、腰まで届く真っ直ぐな黒髪の 美しい女性が立っていた。年は25歳程に見えるが、実際は分からない。白すぎる程の肌に その赤い唇で妖艶な微笑を浮かべていた。
「あれが・・・魔術師か」
 いつの間にかジルの後ろ立っていたカインが呟いた。
「カインさん」
【風の精霊ウィンディよ】
 その一言だけで、カインの周りに小さな風が起こる。するとカインの体はふわり と持ち上がり、2階の廊下へと降り立った。
「あら、初めまして。貴方が噂に名高い大陸一の魔術師《マスター=カイン》ね」
「あんたは」
 目の前の女性が、フフと笑った。
「エルマよ、よろしくね」
 挨拶らしきものを終えた2人は、各々の呪文を唱え始めた。

 アランは次々と増えていく騎士達を、その力強い一撃で当て身をくらわせ沈めていく。 しかし、倒しても倒しても廊下からは、また新たな者達が駆けつけて来る。アランは 大きく息を吐いた。
「お前達、誰に剣を向けているのか分かっているのか!」
 その言葉に、騎士達は一斉に動きを止める。アランは自身の剣の柄をかざした。 アルハント王家のその紋章に、騎士達からざわめきが起こる。
「余はアンドリュー・グリンフィードである。今すぐ剣を置いて退くならば、そなた達の 罪はあえて問わん!」
 騎士達は驚愕の表情を浮かべて頭を垂れると、次々に剣を手から離していった。
 すると、1人の傭兵らしき男が騎士達の間から歩いてきた。アランと同じぐらいの 長身に黒い鎧を身に 纏っている。その男はアランの前に来ると、普通の長剣よりも幾分か長いその剣を軽々 と鞘から引き抜いた。
「お相手をお願いできますかな、アンドリュー陛下」
 男は、その浅黒い肌の精悍な顔を歪ませて笑った。
「・・・いいだろう」
 アランはこの男に不気味な気を感じながら、自身の剣を構えた。
 



*





【Top】 【Next】