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レントの町では今、新王の戴冠式と《恵みの館》の話題で持ちきりだった。
《恵みの館》は、町の中央部にある1軒の空家を拠点として活動している。
彼らは、訪れる者達の悩みを親身になって聞き、その内容に応じて施しを行っているのだという。
その施しとは、時に家族全員がひと月暮らせるだけの十分なお金であったり、
時に一般の者達が手に入れられないような高価な薬であったり、と。それらを
無償で配る彼らを、町の者達は揃って褒めちぎった。
久々に訪れたレントの町で、カインとジルはほぼ半日の間、町の人達に
話を聞いて回っていた。ちなみにカインはというと、正体を隠す為にその目立つ銀髪を黒く
染めている。それでも尚、一目を惹いてしまうその長身と
顔立ちだけはどうにもならないのだが。ジルはというと、相変わらず少年と見間違う着衣を
身に付け、腰には自身の長剣を携えている。
「なかなか評判の団体みたいだなー」
「そうですね、もしかしたら本当にいい人達なのかも」
2人は、のんびりと町を歩きながらそう呟いた。
「はは、可愛いなジェラルディンは。
だけど、そんなに簡単に人を信じちゃいけないよ」
背後からのその声に、カインは不機嫌な顔を浮かべて振り向いた。
「で?何でお前まで付いて来てるんだ・・・デコーズ・セドリック」
「おいおい、仮にも北の領主であるこの私を呼び捨てかい?」
デコーズは笑顔を浮かべたままに、口を歪ませた。
「一歩町に出れば、同じただの人間だ」
2人はお互いを睨みつけた。その間に挟まれたジルが、オロオロ
しながら彼らを交互に見つめている。
「まあいい。もうすぐ夜になるからな、とりあえずどこか大きな
酒場で情報収集を行うことにしよう」
「ああ。お前さんと2人で酒を飲み交わすなど、こんな時しか有り得ない
からな」
「あっあの!えっと・・・僕はどうすれば・・・」
デコーズは、割って入ったジルの方を向くと、にっこりと笑顔を浮
かべた。
「宿屋を取るから先に休んでいなさい。貴女のような
女性を夜の町に連れ歩くのは、危険過ぎるからね」
その意見には、カインも頷いた。
カイン達は、ランクでいうと中の上ほどの宿屋で3つ部屋を
取った。そしてジルを
置いた2人は、町の中央にある大きな酒場へと向かった。
つい先日まで建国祭も開かれていたせいか、カインが以前
訪れた時よりも、倍近い人で賑わっていた。
空席はカウンターのみで、彼らはそこに腰掛ける。軽めの酒
を2つマスターに注文すると、辺りの会話へと耳を澄ませた。
大半の者達の話題は、
先日行われた新王アンドリュー陛下の戴冠式の事や、町を
賑わせている《恵みの館》についてだった。
「あの新しい王様なら、きっとこの国も平和になるだろうよ。見ただろ?
あの神々しいお姿を。あの方はきっと、アルハント様の再来に
違いない」
「いや、どんな王が就こうがこの国は変わるまい。
前国王様は優しい方であったが、俺達の暮らしは結局、
何一つ変わらなかったじゃないか」
「所詮国王や貴族は、我々民衆とは違うって事だ。我らの苦しみなど
何一つ知らずに、我らの納める税金で何不自由なく暮らしてる
んだからな。それに比べると《恵みの館》の方が、よっ
ぽど信じられるってもんだ」
「そいつは違いない。あの方こそが俺達民衆の味方だからな」
聞き耳を立てていたカインとデコーズからため息が洩れる。
「・・・あまりいい傾向ではなさそうだな」
「ああ。しかし一体どんな奴らなんだ、
その《恵みの館》ってのは」
そこへカウンター越しに、先程頼んだ酒が置かれた。
「あら兄さん達、見ない顔だけどよそ者かい?」
カインの右側に座っていた女性が声をかけてきた。彼女は2人を見て、ポーっとした赤い
顔を浮かべている。小柄でスレンダーな、まずまずの美人だ。短いスカートからは、
そのほっそりとした足が覗いていた。
「ええ、まあ」
「いい男だね、2人とも。この町で知らない事があれば何でも聞いて
おくれよ」
彼女の言葉に、デコーズがニヤリとする。
「大陸最強の魔術師である《マスター》がこの町にいると聞いたんだが、一体どんな
人なのか教えてくれないか」
デコーズの言葉にカインがピクリと繭をしかめた。
「へぇ、お兄さん《マスター》の事を知らないのかい。
この町ではあの有名人を知らない
者なんていないよ。見た目だけなら、銀髪に青い目をしたもの凄い美形
なんだがね。問題は、その性格にあるんだよ。ひとたび魔術を使えば、
加減を知らないその威力で町を
破壊し、気に入らない人間がいれば半殺しにしちゃうってんだから。恐ろしい
お人だよ・・・。あんたも
この町でゆっくりしたいなら、《マスター》の悪口だけはやめときな」
「へぇ、それは聞いた甲斐があった。是非気をつけさせてもらうよ」
「そっちの若い兄さん、あんたも気をつけなよ」
「えっ・・・ああ、そうだな」
カインは、今すぐ真横のデコーズを殴りつけたいのを、拳を握り締め
必至に抑えていた。
「そういえば、昨晩も例の盗難事件があったのを知ってるかい?」
「例の?」
カイン達は声を揃えて言った。
「ああ、そうか知る筈なかったんだね」
彼女は椅子を彼らの間に運んでくると、そこに腰掛けた。
「ここ1、2ヶ月の間なんだけどね、レントの貴族達の館から、
お金や宝石が立て続けに盗まれてるんだよ。中には、悪どい商売で
儲けてる商人達も混じってるんだけどね。もう既に、10件は被害にあってる
らしいよ」
「はて・・・そんな噂は聞いた事がないが」
「ああ、俺もだ」
女はニヤリと笑うと右手の人差し指を立てて2人に顔を寄せた。
「表立って騒げるような綺麗な金じゃない、って事だろうよ」
なるほど、と2人が頷いた。デコーズはマスターに酒をもう1杯注文
すると、手のつけていない自分の酒を彼女に差し出した。
「もう少し一緒に話をしないか」
デコーズは、自称女殺しの笑顔を浮かべて言った。
「あら、喜んで」
女はうっとりと赤い顔で頷いた。
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