○●第5話‐(3)●○




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 先程の出来事である。
 ジルは、一年前までエレンが使用していた部屋へと連れて来られた。エ レンとマチルダの2人は、クローゼットに残してあった自分達のドレスを、 次々とジルに着せて楽しんでいた。その数は十数枚にも及ぶ・・・。
 やがて、ある1枚のドレスを着たジルを見て2人は頷くと、次は化粧と髪 を弄び始めた。
 そしてジルは、2人に手を引かれるままにこの会場へと連れて来られた のだった。

 今の彼女はというと、ふわりとした真っ白なドレスを身に付けている。そ れは上質な絹糸で織られ、アシンメトリーなスカートが可愛い少し短めな デザインとなっていた。彼女の髪には小さな白い花が散りばめられいる。 そして、ピンク色の可愛い口紅が白い肌によく映えていた。


【 挿 絵 】 別窓開きます


「あらカイン、女の子に可愛いの一言も言えない様な無粋な男に育てた 覚えはないわよ」
 エレンの言葉に、カインがハッと我に返った。どうやら、しばし見とれて いたらしい。彼は何か口にしようとしたが、背後からの声に遮られた。
「どこの女神かと思えば、ジェラルディンじゃないか!ああっ君はなんて美 しいんだ」
 振り向くまでもない、目の前のジルの顔が凍りついている。その声の主 は、デコーズ・セドリックその人であった。
「私の贈ったドレスは着てくれなかったんだね。でも、その真っ白なドレス も君によく似合っているよ。まるで、ウェディングドレスのようだ・・・ああっ いっそ今すぐここで私と結婚しよう!」
「えっえっと・・・それはちょっと・・・」
「大丈夫さ、もう指輪も用意してあるんだ。ほら」
 そう言うとデコーズは、上着のポケットから小さな箱を取り出した。開く とその中には、透き通った美しい宝石がはめ込まれた指輪が光り輝いて いた。
「これはわがセドリック家の女主人となる女性に、代々受け継がれるもの なんだ。私の亡き母もきっと、君にはめてもらえるのを望んでいるよ」
「あのー・・・もしかして準備の為に領土に帰ったっていうのは・・・」
「もちろんこの指輪の為だが?わが館の方でも、私達の婚礼の準備は滞 りなく進んでいるから安心してくれ」
 とんでもない男である。エレンとマチルダは唖然とした表情で2人を見つ めていた。ジルとカインの2人にいたっては、すでに意識は遥か遠くへと旅 立っていた。
「何を騒いでいるんだね」
 レガレスとアラン、ジェイルの3人であった。エレン達の姿を見つけて寄 ってきたらしい。
「おおっジル殿、なんとも愛らしい。それにそのドレス、どこかで見た事が あるような・・・はて」
 レガレスが首を傾げた。それを見て、マチルダがクスクスと笑う。
「あら、このドレスは私があなたと初めて踊った15の時のものですわ。思 い出だから、ずっと大切に保管していたの」
「おおっそうだ!あの時私は一目で君に恋に落ち、翌日に求婚したんだ」
 隣で盛り上がっている親達の言葉もアランの耳には届かず、目の前の ジルただ一人を静かに見つめていた。ジルもまた、王としてのアランのそ の姿に見入っていた。
 エレンが息子カインを肘でつつくと、小さな声で耳元に囁く。
「なに?あの2人ってそうなの?」
「いや、まだ発展途上」
「ふーん、ならまだチャンスあるんじゃない。あんたも頑張りなさいよ」
「なっ何言ってんだアンタ!俺はそんなんじゃねー」
「フフ、そういうことにしておこうかしら?」
 母親とのやりとりに、カインは真っ赤な顔を右手で覆った。
『そんなんじゃない・・・俺はただ、あの2人がー・・・』
 気がつくと、辺りがガヤガヤと騒がしくなっていた。今この場いるのが アルハントの王家や主要人物ばかりであるから当然である。既に彼ら の周りを囲って人だかりができていた。
「行くぞ」
 そう言うと、カインはジルの手を掴み宴を後にした。

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 2人は大広間のテラスから庭園の方へと出た。すでに夜となっており、 うっすらと月明かりだけが辺りを照らしている。
「連れ出して悪かったな。あまりに注目を浴びすぎていたからさ、あの 集団は」
「いえ、僕は元々ああいう場に慣れてないので、連れ出してもらえてホ っとしました」
 ジルはぺこりと頭を下げた。
「それにしても、ウチの母さん達に捕まるなんて運が悪かったなー。俺な んて、小さい頃からずっとオモチャにされてんだぜ」
「でも、面白くて優しい方々ですね」
「ああ、なんせ俺をこんな性格に育てた人達だからな」
 カインの言葉に、ジルは思わず吹き出した。
 しばらく庭園の中を歩いていた2人は、木製のベンチを見つけてそこに 腰掛けた。
「本当は僕、探し物を見つけるためにこの町に来たんです。でも、お2人 に出会ってから、毎日があまりに新鮮で楽しくて・・・」
「そうだったのか・・・」
 カインはぽんっとジルの頭に手を乗せると、優しく微笑んだ。
「だがこの国も、新しい王が即位したばかりで慌しくなる。しばらくの間は ここでアランの為に手を貸してやってくれないか」
「はい、僕でお役に立てる事がありましたら喜んで」
「・・・それで、その探し物っていうのの手がかりは掴めたのか?」
 カインの問いに、ジルはゆっくりと首を横に振った。
「でも、レガレス様やジェイル様が何か知っているみたいなんです」
「親父達が?」



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