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アラン、カイン、少年の3人は、一先ず近くの店へと入った。
どうやら青年二人はまだ食事をしてなかったらしい。アランが、適当な食
べ物と3人分の飲み物を注文する。
そして、注文を聞き終えたウェイトレスが立ち去るのを見守ると、アランが口を開いた。
「先程は、どうやら余計な心配だったようだな」
アラン自身、剣には多少の自信があった。しかし、この少年の神業のごとき剣技
を間近で見せられた後では、世界は広い・・・・・・と実感させられる。
「いえ、僕なんてまだまだです。修行の身ですから・・・・・・」
少年は顔を赤らめ、照れながら答えた。
「私の名は、アラン。こっちがカインだ」
「僕はジルと言います」
3人は簡単な自己紹介を交わした。
先程から、カインが彼をじっと観察している。自分の銀髪と青い瞳
も充分珍しがられるのだが・・・目の前の少年は、太陽のように真っ赤
な髪と琥珀色の瞳をしていた。髪はカインよりも少し長い程度で、顔
にはまだあどけなさが残っている。16、7歳ぐらいだろうか。肌は白
く透き通っていたが、不健康そうな印象はない。
少年か少女か、どちらとも取れる顔立ちである。大男達が「小僧」と
呼んだのは、恐らくその服装からだろう。その年頃の少年達がよく身に付
けている、膝より少し長いゆったりとしたズボン。その上に、灰色の
くすんだ着衣を身につけていた。
おっとりとした・・・・・・悪く言えば、ぼーっとさえ見れる表情の為、先程の
ような連中に絡まれていたのだろう。よく見れば、整った顔立ちをして
いる。どこか少し、気品さえも感じられるような。
「えーっと・・・・・・その・・・・・・実は、うっかり自分の剣を落としてきてしまって
・・・・・・あの時は本当に困っていたんです」
ジルは真っ赤になりながら、とんでもない事を言った。
『本当にこれが、さっき見事な剣技を見せた少年なのだろうか?』
アランとカインは、心底信じられないという表情で見合った。
「それで、剣は見つかったのか?」
「はい、1時間程前にこの店でお昼を食べた時に忘れて行ったみたい
で。落し物として店員さんが預かっていてくれたそうなんです」
ほら、っと椅子に立て掛けていた剣を二人の前に差し出した。
長剣だった。鞘には、何か文字のようなものが刻まれ
ているようだが、今では読み取れない程に薄汚れていた。
鞘のその見事な細工から推測すると、元々は高価なものだ
ったのかもしれない。しかし、165センチにも満たないだろう身長のこの少年がこれを
持ち歩くのは、少し不釣合いにも見える。
「これは、先祖代々伝わるウチの家宝らしいんですけど・・・・・・
なぜか僕以外の家族は、誰一人この剣を鞘から抜く事ができなかったんです。2年前
に旅に出る時に、無用心だからと父がこの剣を預けてくれました」
ウェイトレスが、先程頼んだものをトレーに載せて運んできた。
ジルの前には、冷たいオレンジジュースが置かれた。
「それで、剣はどこで教わったんだ」
アランが尋ねる。
「剣は小さい頃から父に教わっていました。その後は絡まれやすい体質のせいで、旅の道中、
引っ切り無しに盗賊や人相の悪い人達が襲って来て。
人に恵む程の余裕もないし、必死に剣を振り回して抵抗し続けてたんです。そして
気がついたら事態が悪化してしまって・・・・・・」
アランとカインの2人は、机に並べられた食べ物に手と口を動かしながら、
彼の言動に耳を澄ませていた。
「さっきみたいな奴らだけなら、何とかあしらえるんですけど・・・・・・時々
とんでもなく強い人達が勝負を挑んでくるようになったんです。あっ、こう
見えても僕、負けず嫌いな方なんですよ」
一体この少年は何が言いたいのだろうか、二人が首を傾げる。
「大陸一の剣豪と呼ばれている人が、僕に挑んで来た事もあったんです。凄く強い
人でしたけど、僕の方が勝ってしまって・・・・・・」
食事中だった二人の手が完全に止まった。
「おい、まさかお前・・・・・・」
「悪いが、その剣の刀身を見せてくれないか」
「え?はい・・・・・・」
ジルは、のんびりした動作で鞘から刀身を引き抜いた。すると、血のよ
うに真っ赤な刀身が、店内の明かりに反射して光を放った。
「お前があの《赤い闘神》だと―――――!!」
店内に響き渡る大声で、2人が声を揃えて叫んだ。
2人のその言葉に、店内がざわめき始めた。それもその筈、《赤い闘神》の名を聞けば、誰も
が一目散に逃げ出す存在なのだから。
「出よう」
アランは机に食事代と多めのチップを置くと二人に目配せし、3人は店を
後にした。
《赤い闘神》・・・・・・剣を極める者ならば、一度は手合わせを願いたい、と思う
存在である。
1年程前から旅人達の間でその名が広まり、瞬く間にこのレントの町に
も伝わってきた。何でも、数多くの剣豪達と戦いながらも、1度も負けたこ
とのない若い旅の剣士がいる・・・・・・と。
この大陸では3年に1度、大陸中の剣士が集まり剣の頂点を決める大
会がここ、レントで催される。ちょうど昨年に開かれた大会で、ウォルフとい
う名の剣士が優勝した。彼
はこの大会で3連覇を成し遂げた、誰もが認める大陸一の剣士であった。
ウォルフは風の噂で《赤い闘神》の存在を知り、半年程前に勝負を
挑んだが、あっさりと返り討ちに遭った・・・・・・という話が大陸中に広まった。
人々は最初、「ただの噂だろう」と口々に笑い飛ばしていたのだが、ウォ
ルフ自身が認めているそうだから、真実に違いない。
噂が噂を呼び・・・・・・《赤い闘神》は、2mを超える大男だとか、悪魔のような
形相の男だとか、返り血で真っ赤に染まった服を着ているだとか、真実の
姿はなかなか伝わってこない。ただ一つだけ、血のように赤い刀身の長剣
を携えている・・・・・・という噂だけは、どうやら真実だったらしい。
実際、隣にいるこの少年を見て二人は納得をする。世界一の剣豪を負か
したのが、こんなひ弱そうな少年だなどと、誰が信じるだろうか。
今では《赤い闘神》の名は大陸全土に広がり、剣の道に生きる者のみならず、老人
から子供まで、知らない者は誰一人いないだろう。
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