○●第3話‐(4)●○




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「おーい、ジル! 俺がせっかく目ぇ覚めたってのに、なんでお前がまた 寝直してんだよ。さっさと起きろ!」
「んー・・・・・・」
 突然頭の上から降ってきた声に、ジルはゆっくりと目を覚ました。いつもの 自分を呼ぶ《あの人》の声は聞こえなかった。
「あれーカインさんだ」
 目を開けるとそこには、カインが飽きれた顔を浮かべて立っていた。窓の外からは 眩しい光が射し込んでいる。どうやら2時間ぐらい眠っていたようだ。
「カインさんだ、じゃない。さっさと起きろ! 今日はお前の相手を頼 まれてんだからな」
「はぁ・・・・・・そういえば」
 ジルは体を起こすと、髪と着衣の乱れを直した。その様子をカインがま じまじと見つめている。
「あのー・・・・・・何か?」
「お前、女だったんだってな」
「はっはい・・・・・・一応」
「ふぅーん、ならいいや」
「は?」
 ジルが不思議そうに顔を上げると、カインは満面の笑みを浮かべていた。
「昨日のアランとお前の様子見ててさ、こいつら男同士で禁断の愛にでも 発展したらどうしようか、って心配してたもんでな」
 それを聞いたジルは、真っ赤になって下を向く。その様子を、カインは意 地悪そうにニヤニヤと見つめていた。
「そっそんなんじゃないです!」
「へぇ、まっいいけどな。今まで女の話一つした事のない堅物なあいつに も、ようやく春が来たか、と思ったんだけどな。ふーん?」
「まっまだ昨日会ったばかりですから! そんな事ー・・・・・・」
「そうかぁ? アランの奴にしては、ずいぶん気にかけてるみたいだぜ?」
 ジルはうつむいたまま言葉を失った。
『ありえませんって! こんな大国の王様が僕なんて・・・』
「まっいいや。それより俺に剣を教えてくれないか。どうせアランはあと 数日は、親父から開放してもらえないだろうからさ」
「え? でも、カインさんは宮廷魔術師としてのお仕事があるんじゃ」
「ない! むしろ、呼ばれるまでは何もするなと命じられている」
 カインは不満そうに眉をしかめたが、すぐに笑顔に戻った。そしてジルの手を、力いっぱい引 き上げる。
「ってわけで、中庭に行くぞ!」
「えっ? はっはい!」
 ジルはカインに強引に引きずられながら、テーブルの上の剣を掴む。そして、 2人はそのまま部屋を後にした。

 ジルは中庭へと連れてこられた。そこは先程の庭園ほどではないが、美しい花々が咲き乱 れている。その中央には広い空間があり、そこでは数人の若い騎士 達が剣の修行に励んでいた。
「カイン様! おはようございます」
「おはようございます!」
 彼らは一時手を止めて、カインに向かって挨拶をした。
「よぉ、頑張ってるか?」
 カインもそれに笑顔で答える。
「はい。カイン様も懲りずにまた剣の練習ですか。そろそろ諦めたらどうです?」
「ほっとけ! 今日はスペシャルな講師様をお連れしてるんだからな」
 カインがジルの肩にポンと手を置くと、騎士達は驚いた顔で彼女の方を向 いた。ジルはキョロキョロと辺りを見渡したが、やがて自分の事だと気づき、 真っ赤な顔でうつむいた。
「こっこの小さな少年・・・・・・ですか?」
 騎士の一人の言葉に、カインがにやりとする。
「ジタン、お前確か近衛隊の中でも、1、2の剣の使い手だったよな」
「ええ、まあ」
「ジル、お前こいつと勝負してみな」
「えっ、僕がですか!」
 ジルは、参ったなーという表情を浮かべながら頭を掻いた。
「アランとの事、こいつらにバラすぞ」
 ボソッとカインが囁くと、ジルは更に真っ赤になる。
「だっだから、何がですか! 何にもないですってば・・・・・・」
 カインには適わないとジルは諦め、ジタンの前に歩み出た。
 2人は軽く一礼を交わすと、自身の剣の柄に手をかけた。
「始め!」
 カインの掛け声と共に二人が剣を鞘から引抜く。いや、正確にはジタン が鞘から引抜くよりも早く、ジルの剣が彼の首筋で停止していた。彼女はいつ踏み込んだの だろうか?  それは信じられない程のスピードだった、太刀筋さえも見えない程・・・・・・。
「ひっ」
 大の大人であるジタンが悲鳴を上げる。ジルがハッと我に返り剣を鞘に 戻すと、ジタンは糸が切れたように地面へと座り込んだ。
「な? 凄いだろ、こいつ。昨日拾ったばかりなんだぜー」
「僕は捨て猫じゃありません・・・・・・」
 周りの剣士達がカインとジルの元に駆け寄ってくる。驚嘆と感嘆の表情 を浮かべながら。
「何者なんですか、この少年は!」
「フッフッフッ聞いて驚け! おっとその前に言っておくが、こいつは女だぞ」
「そっそんな!」
 騎士達の間にどよめきが起きる。カインはにやりと笑うと、ジルの肩に両 手を置いた。
「《赤い闘神》お前らも聞いた事があるだろ? それがこいつだ」
「ええっ―――!」
 大きな叫び声が上がった。自分の事のように自慢気なカインを見て、ジル は大きなため息をつく。
『ちゃんと、ジェラルディンって名前があるんだけどなぁ・・・・・・』
 騎士達は超えを失っていた。信じられないという表情で、目の前の少女を見入っている。 ジルは今すぐここか ら走り去りたい衝動に駆られていた。
 やがて、騎士達のざわめきも収まっ てくる。
「この方が側にいらっしゃるなら陛下もご安心ですね」
 座り込んだままのジタンが、静かに呟いた。周りの騎士達の表情も変わる。
「ああ、そうだな・・・・・・」
 ジタンの言葉に、カインは穏やかな表情で答えた。
『この人達は皆、アランさんの事を心から慕っているんだ』
 ジルは温かい気持ちになる。そして、先程のレガレスの言葉を思い出した。
( この国をよろしくお願いします )
 あれは一体、どういう意味だったのだろうか・・・・・・。
「ジル様」
 ジルは声をかけられ、ハッと我に返った。
「はっはい」
 ジタンは彼女の前にひざまずくと、スッと頭を垂れた。他の騎士達もそれに倣う。
「どうぞ私達にも剣をお教え下さい。陛下をお守りする為、もっと・・・もっと強い力が 欲しいのです」
 その声は真剣だった。自分よりもずっと年上の立派な騎士達に頭を下げられて、 ジルは慌てふためく。彼女はそっと、隣に立つカインを見上げた。カインはそれに、 小さく頷く。
「こいつらにも剣を教えてやってくれないか?」
「僕でお役に立つのならば・・・・・・」



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