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『ジ・・・ル・・・ジャラルディン・・・・・・』
まどろみの中で、いつもの《あの人》の声が聞こえてくる。
温かい光に包まれたような、心地よい瞬間。ジルはもっとこの声と
一緒にいたいと望む。しかしだんだんと声は遠のき、意識がはっきりとして
くる。
ジルはうっすらと目を空けると、カーテンの隙間から眩しい朝日が
差し込んでいた。
「そうか・・・・・・・ここは王宮だっけ」
見慣れない部屋をキョロキョロと見渡した。昨晩カインと到着した後
すぐに部屋へと案内されたジルは、旅の疲れもあったのか、そのまま
眠ってしまったのである。
改めて部屋を見渡すと、30帖はあろう広い空間には、豪華な家具の品
々が並んでいた。壁や柱、天井にも見事な装飾がなされている。そし
てジルが眠っていたベットは、楽に3人は眠れる程の大きさであった。
更に、洗面台、トイレ、風呂も続き間で備え付けられていた。
「なっなんでこんなに立派な部屋が・・・何かの間違えなんじゃー」
コンコン、と戸を叩く音が聞こえた。
「ジル、私だが・・・目は覚めたか?話したい事があるのだが・・・・・・」
「まっ待ってください」
慌てて部屋の隅にある鏡台へと走り、寝癖でぼさぼさになっている髪を
櫛で直す。そして、思い出したように洗面台へと駆け出し、顔を洗った。
簡単に身支度を終えると、慌てて扉へと急ぐ。
「どうぞ」
扉を開けるとアランが立っていた。なぜだか複雑な表情を浮かべて。
「えっと、その・・・・・・おはようございます・・・陛下・・・いえっアランさん」
昨日カインに言われた言葉を思い出し、名前で呼んでみる。恐る恐るア
ランを見上げると、彼は必死に笑いを堪えていた。
「アランでいい。かしこまる必要もないぞ」
「はい」
ジルはホッと胸を撫で下ろした。
「アランさん・・・僕なんかにこんな立派な部屋だなんて、何かの間違え
なんじゃないでしょうか」
おずおずとジルが尋ねると、アランは優しく微笑みながら首を横に振っ
た。
「ジェイルがお前にはこの部屋を、と案内したのだから。あの者のする
事に間違えはない」
「昨日の・・・・・・カインさんのお父さんですね」
昨晩、城にたどり着いた時、ジェイルがジル達を出迎えた。自分の隣に
いるカインにあまりにも良く似た容貌に驚いて、ポカンと見上げていた
ジルに、カインがそっと耳元に囁く。
「あれ、俺の親父。一見いい人そうに見えるがとんでもないぜ?」
ゴホンという咳払いが聞こえて前を見ると、ジェイルが睨みつけていた。
『ひぃっ! 間違えなく親子だ、この二人・・・・・・』
ジルはこっそりと心の中で呟いた。
その後、ジェイルからこの部屋へと案内された。途中、廊下で1度だけ
け彼が振り向き、悲しく・・・・・・そしてとても優しい瞳で自分を見つめたのを
思い出した。
『あれは何だったんだろう・・・・・・』
アランとジルの二人は、ソファーに向かい合って腰掛けた。
「昨日は本当にすまなかったな。旅でさぞ疲れていただろうに」
「いえ、そんな事は・・・・・・」
そのまま会話は途絶え、二人の間に長い沈黙が続く。アランは真剣な眼
差しでジルを見つめていた。
しばらくして耐え切れなくなったジルが口を開く。
「あの・・・その・・・できれば・・・あまり見つめないで欲しいのですが・・・・・・」
その言葉にアランも真っ赤になり、視線をそらせた。
「すまん。ただ、昨日は気がつかなくてすまなかった」
「は?」
「いや、その・・・ジェイルからお前は女だろうと聞くまで、ずっと少年だと
勘違いしていたものだから・・・・・・」
ジルはポカンとした表情でアランを見上げたが、すぐに笑い出す。
「いいんです!男ばかりの兄弟の中でこんな風に育ってしまって。それに
たいてい間違えられるんですよ」
「そうか・・・・・・では、ジルという名ももしかして」
「はい、ジェラルディン・ローランズと言います」
アランは改めて目の前の少女を見つめた。この年頃の娘達ならば、何より
もお洒落に夢中な筈だった。しかし彼女は、短めに切った髪に男物の着衣
を身につけている。これでは少年と見間違えられても、おかしくはないだろう。
この少女が髪を伸ばし、貴族の娘たちが身に付け
ている豪華なドレスで身を包んだならば、さぞ美しいであろうに・・・・・・。
「僕はこれでいいんですよ。旅をしている間、男であった方が断然楽だっ
たし。今更この言葉遣いは治らないんじゃないかと・・・・・・」
「そうだな。まさか《赤い闘神》が少女だったなどと噂が広まった日には、
お前に敗れた剣士共が自殺しかねん。・・・・・・と、別に女だから、とか男だか
らとかそういう差別的な意味ではないぞ、断じて!」
アランの慌てふためく様子を見ながら、ジルが不思議そうに首を傾げる。
「それで? アランさんは僕を少年と間違えた事を謝る為に、わざわざ朝か
らいらっしゃたんですか」
「いや、宰相・・・ジェイルが、朝食を終えたらお前に話があるそうだ」
「僕にですか?それはいいのですが・・・大国の王がわざわざ伝言を伝えに
自ら出向かなくとも・・・・・・」
「私はこの城では、誰よりもヒマな身なのでな」
真面目な顔で答えるアランに、ジルが吹きだすと、つられてアランも笑い
出した。
「では、食堂まで案内しよう。一緒に朝食にしないか」
「はい、実はお腹ペコペコなんです」
笑いながら二人は立ち上がると、食堂へと歩き始めた。
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