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《アルハント》最大の商業都市、《レント》
アルハントの中央にあるこの町は、最大の商業都市であると同時に、
王都でもある。王宮には国王が住まい、この地からこの国を統治している。
およそ10万人の人々が暮らすこの町は、いつも
人で賑わい、活気に溢れている。路地には、様々な店が建ち並んでいた。
華やかな町ではあるが、その裏では毎日のように犯罪が耐え
ない。富を築こうとする者達はあらゆる悪行を行い、力無き者達は、その
影で、貧困に苦しみながら日々暮らしていた。
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「ですから! あなた方に差し上げる余分なお金なんて、1リル
たりとも持ち合わせちゃいないんです」
路地の片隅で、まだ声変わり前と思われる少年の声が響いた。
人相の悪い5人の男たちに囲まれ、華奢な体つきの小さな少年は、心底
迷惑そうな表情を浮かべている。
彼らにしてみれば、まさか抵抗されるなどとは、思ってもいなかったらしい。
大男達が面食らった顔を浮かべている。
「こ・・・・・・小僧、調子に乗りやがって!いいから早く有り金を全部渡せ!
そうすれば痛い思いもせずに開放してやるって言ってんだよ」
大男の一人が、少年の胸ぐらを掴んで怒鳴った。臭い息が顔にかかり、少年は
不快とばかりに顔をしかめる。そして、やれやれと腰に手を伸ばした。
「あれ?」
いつも腰にかけてある筈の長剣の感触がない。つい先刻
お昼を食べに立ち寄った食堂で、食事中邪魔になるからと腰から外したところ
までは覚えているのだが。
「しまった・・・・・・」
( ―――忘れてきた? )
少年は片手で顔面を覆うと、ため息と共に呟いた。
「何ぶつぶつ言ってんだ。早く出さねーと、いくら温和な俺達だって、無傷
では解放してやれなくなるぞ」
残りの大男達は、しびれを切らして拳を構え始める。
『やれやれ・・・・・・体術はあまり得意じゃないんだけどなあ』
少年は心の中で呟くと、胸ぐらを掴んでいる男の腕を握りしめた。
「おい、そこで何をしている」
大男達と少年が声の方向を振り向く。するとそこには、二人の青年が立ってい
た。
一人は、銀髪に青い瞳をした長身の青年。髪は邪魔にならない程度に短く
切られている。この大陸では茶色もしくは黒髪の民が主であり、
銀髪などというものは聞いた事もない。
さらに、彼の顔立ちは繊細で美しい。それでい
て、女とは見間違えられないその容貌は、凛としたその雰囲気だろう。
黒を基調とした平凡なデザインの服装をしていたが、銀髪とその美しい顔が
際立ち、どこか神聖を思わせる。
そしてもう一人。こちらはごく平凡な黒髪と黒い目の持ち主ではあったが、
纏っている空気が只者ではない。なぜなら、見つめられるだけで威圧感を感
じるであろうその風格にある。こちらも長身で、前者の青年に負けず劣らずの
美形である。ただしこちらは、
繊細な印象は全くない。
切れ長の目が、鋭く大男達を睨みつけている。まるで、卑しい者を蔑んでいる
ように。
「なんだぁ、この兄ちゃん達は。そんな細っこい腕で俺達に適うと思って
んのか?」
少しひるみながらも、ここで引き下がれるか、と大男達が噛みつく。
「だそうだ、カイン」
「はぁ・・・・・・確かに俺の剣の腕で適うかどうかは不安なんですけど・・・・・・」
「ここで負けたら、お前の今月の給料は2割カットだと思えよ」
「はぁ? ただでさえ薄給だってのに・・・・・・ちょっと待って下さいってば!」
少年はキョトンとした表情で、二人のやりとりを見つめている。そして大男達
はついにしびれを切らした。
「野郎ども、あの優男共を叩きのめすぞ!」
「おう!」
掛け声と共に腰の剣を抜くと、二人の青年目がけて剣を振り上げた。
黒髪の方の青年が数歩後へと下がり、カインと呼ばれた銀髪の青年が腰の剣を抜いて
構える。そして、我先に飛び掛ってきた大男の一人の剣を軽く受け流す・・・・・・筈だった
のだが。
ガキィイン
「あれ?」
カインの剣は弾き飛ばされ、10m程先の路地に突き刺さる。辺りに
いた人々から、大きな悲鳴が上がった。
「カイン・・・だから剣の握り方から覚えろと言っただろう」
黒髪の青年がため息を吐きながら、やれやれと呟いた。
「あはは、その通りでしたね。帰ったら練習しますよ」
丸腰になりながらも、カインは余裕の表情で笑っている。
チャンスとばかりに大男達は、がら空きの青年に向かって斬りかかる。
そして大男の一人が、剣を振りぬいた・・・・・・と思った瞬間であった。
その剣は青年に触れることなく、男は5m程後ろの壁に叩き付けら
れていた。全身を強く打ち付け、気を失って・・・・・・。
「なっ何が起こった?」
残りの大男達からざわめきが起きる。
「すみません、アラン。今日のところは魔術で片付けようと思います」
「お前って奴は・・・・・・まあいい、さっさと茶番は終わらせろ」
「はーい」
アランと呼ばれた黒髪の青年は、腕を組みながら傍観を決め込んでいた。
「おい、そういえばさっきからカインとか?」
大男の一人が呟いた。それを聞いた残りの3人が、ハッとした表情を浮かべる。
「魔術・・・・・・それに銀の髪に青い目・・・・・・まっまさか!」
揃った声で4人が叫ぶ。
「史上最悪の世界最強魔術師。《マスター=カイン》!!!」
史上最悪呼ばわりをされた青年・・・・・・カインは、少し心外そうな顔をする。
「いや、最強はあたりまえだが、最悪とは失敬な!」
後方で聞いていたアランは、声を殺して笑っている。そして、先程までのんびりした
雰囲気を纏っていたカインの顔が強張る。
「お前ら、まとめて生きて帰れると思うなよ、くそっ」
カインを囲んでいた大男達は、相手の正体に気づくと、我先に散らばって
逃げ出し始めた。しかし、逃がすまいとカインが呪文を唱える。
「どっどけ、小僧!」
大男達の逃げる先に、先程の少年が立っていた。その手には、カイン
の長剣を携えている。
少年が緩やかな動作で剣を構えた。1秒でも早くこの場から逃げ出したい
大男達は、少年へと斬りかかる。しかし数秒後には、
彼らの方が地面に這いつくばっていた。完全に意識を失って・・・・・・。
その少年は、凄まじい剣さばきで、男達に次々と当て身を食らわせたのだ。
それも、信じられない程のスピードで。
世界最強と呼ばれた魔術師、そしてその主であろう青年が、茫然とした
表情で少年を見つめている。
少年は早足で二人の元へ駆け寄ってくると、スッとカインの剣を差し出した。
「危ないところを有難うございました」
そう言って、にっこりと微笑んだ。
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