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* * * 森の奥から無数の足音が近づいてくる。 神殿の前で待機していた神官兵達は、腰から剣を引き抜いた。 「来るぞ! 必ずここで食い止める、絶対に神殿を血で汚すな!」 フォークスが声を張り上げた。 一同の緊張が高まっていく。若い神官兵の多くはフィリア同様、今回が初めての実戦となる。 中には、剣を持つ手が震えている者さえもいた。 フォークスはそれを感じ取ったのか、彼らをゆっくりと見渡す。 「相手は、命じられて巫女の命を狙いに来た者達だ。だが我々は違う。自分の意思で、大 切な巫女を守る為に戦うのだ。大切な人を守る、その想いよりも強いものはない。 我々は絶対に負けない!」 ( 大切な巫女を、この手で守る―――― ) フォークスの言葉に、彼らは手にした剣を、強く強く握りしめた。 敵は森の中から一斉に現れた。騎士の他に、傭兵らしき者達の姿もある。 その数は予想以上に多い。 彼らは一気に向かってくるかと思ったが、一旦その場で静止した。 その中から、一人の騎士が歩み出た。年は30歳前後だろう、がっちりとした体格の大男だった。 それに合わせ、フォークスも前へと歩み出る。 「お前は確か、ラングレー卿の小隊長・・・・・・ガウルといったか」 「これはこれは、私をご存知でしたか。光栄です、フォークス・レインズ殿」 丁寧な言葉とは逆に、男の顔には嘲るような笑みが浮かんている。 「素直に巫女を渡して頂ければ、あなた方に危害を加えるつもりはありません」 ガウルが言った。しかし、フィークスの表情は変わらない。 「《聖なる乙女》に剣を向ける。お前達はその意味が分かっているんだろうな」 「我々騎士は主君の命に従って動く、ただそれだけです」 「貴様!」 後方にいた神官兵の1人が、ガウルに向かって走り出した。 「待て!」 フォークスは右手をスッと伸ばし、彼を静止する。 「ガウル、お前の相手は私だ」 「ほう、文人としても剣士としても名高い、フォークス殿がお相手ですか。これは光栄ですな」 そう言うとガウルは後方を振り返った。そして右手をかかげる。 「行け! 巫女は神殿の中だ。必ず殺せ!」 大きな雄叫びが上がる。男達は剣を腰から引き抜くと、一斉に走り出した。 「絶対に神殿に入れるな!」 フォークスの声に、神官兵たちが剣を構えた。 大きな叫び声と切り裂くような悲鳴―――― それは、神殿の中にまで伝わってくる。 「まずいな、随分押されている。このままだとすぐに、神殿の中に侵入して来るぞ」 クラウスの言葉に、周りにいた神官達の顔が強張る。 中にいるのは殆どが女性達であり、武器を扱った経験も少ない者ばかりだった。敵が侵入してくれば、 ひとたまりもないだろう。 「フィリア」 名前を呼ばれたフィリアは、ゆっくりと顔を上げる。その表情は落ち着いていた。 「来るぞ」 クラウスの言葉と同時に、神殿の正面から3人の男達が突入してきた。フィリアとレナは 剣を構える。 その中の2人が、真っ直ぐにフィリアへと向かってくる。もう1人はレナへと斬りかかって いった。 フィリアは正面から振り下ろされた剣を、後ろに退いて避ける。体勢を整える暇もないまま、 次の男が斬りかかってきた。剣と剣が交わる。 彼らは傭兵らしい。その動きは俊敏だが、騎士のように教え込まれたものとも違う。 どこか荒々しいその動きには、隙も多い。 フィリアは傭兵2人を相手にしながらも、決して怯まない。男達の重い剣を受けながら、 確実に追い詰めていく。 後方の神官達が、青ざめた表情で見つめている。助けに入ろうにも、 足が震えて動かないのだ。 フィリアの腕は、確かに男達を上回っている。 何度かチャンスもあった。しかしフィリアは、男達に剣を突き立てようとはしなかった。いや、 できないのだ。彼女は実戦中の今もまだ、相手を傷つける事を躊躇っていた。 しかし、彼女のその躊躇が小さな隙を作った。 「巫女!」 神官の女性が叫んだ。フィリアはハッと後ろを振り返る。それは、背後から男の剣が 振り下ろされる瞬間だった。 ( 避けきれない! ) 次の瞬間――― 赤い鮮血が、彼女の真っ白な着衣を染め上げてゆく。 剣を手にしていた男の右手は、付け根からばっさりと切り落とされていた。男は不思議そうに、 床に転がる自分の腕を見つめている。そして次の瞬間、男の体はゆっくりと地面へと沈んでいった。 そこに立っていたのはクラウスだった。 彼の右手には、血のように赤い刀身の長剣が握られている。 「クラウス・・・・・・」 「フィリア、敵から目を離すな!」 彼女はハッと視線を戻す。どうやら男も一瞬静止していたらしい。 男は剣を構え直すと、 再びフィリアへと斬りかかってきた。 フィリアは男の剣を弾き飛ばし、丸腰になったその横腹に剣を突き立てる。 くぐもった呻き声と、痛みに歪む男の顔――― ドシンという鈍い音を立て、男の体は地面へと 倒れていく。 ガタガタ震え出したフィリアの肩を、クラウスがそっと引き寄せる。 「大丈夫だ、2人共まだ死んでいない。後でお前が手当てをしてやれ」 優しい声だった。フィリアは口を手の平で押さえ、泣き出すのを必死に堪えていた。 レナも片付いたらしい、フィリアの下へと駆け寄ってきた。 「あなた・・・・・・」 「俺も援護する。魔力は使わんと言ったが、剣ならば問題ないだろう」 「お願いするわ」 レナはフィリアへと視線を移す。 「フィリア様、しっかりして下さい。すぐにまた、敵がやって来ます」 フィリアはレナの言葉に、小さく頷いた。誰がどう見ても、大丈夫という様子ではない。 その時だった。突然外の雑音が大きくなった。 圧倒的に、ガウル側が押していた。 当然である。経験の少ない神官兵達とは違い、相手は実戦を積んだ傭兵や騎士なのだから。 フォークスを含め、王都から来た9人の騎士達は確かに強い。しかし相手の数は圧倒的に多く、 神殿側は明らかに不利な戦況だった。 フォークスはガウルとの一騎打ちの為、援護に回る余裕もない。 小隊長のガウルは予想以上に強く、フォークスは苦戦を強いられていた。 「くそっ」 思わず声がこぼれる。その声にガウルが笑みを浮かべる。 「経験の差ですよ。あなたは確かに強いが、まだ若すぎる。こんな所で散らすには勿体無い命です、 未来の宰相殿」 「黙れ!」 冷静沈着なフォークスの顔が、焦りに歪んでいた。 ( このままでは、神殿側は全滅してしまう・・・・・・どうすればいいんだ ) その時だった。 森の奥から、新たな足音が響いてくる。その数は1人や2人ではない。 「援護か!」 ガウルが叫ぶ。しかしそのような事は、ラングラー将軍からは聞かされていない。 「くっ、ここまでか――― 」 フォークスが呟いた。 しかし森の中から姿を現したのは、王都の鎧を纏った騎士達だった。 その数は、軽く100を超える。その先頭に立つ人物は―――― 「アーロン殿下!」 フォークスが声を張り上げる。 「何っ」 ガウルは剣を止めると、森の方へと視線を移した。その瞬間、彼は目を見開いた。 フォークスの言葉通り、そこに立っていたのは アーロン・ベークラントだった。 「なぜ殿下がここに・・・・・・」 アーロンは腰の鞘から剣を引き抜くと、高らかに天へとかかげた。 「私は《エルハード》第一王子、アーロン・ベークラントだ。 我々は神殿の援護に来た」 凛としたその声とアーロンの名前に、大きな歓声が上がる。 「我々がこの場を引き受ける。神官兵の方々は、巫女の援護に回られよ」 ( これで優勢が変わる ) フォークスはすぐに視線をガウルへと戻すと、再び剣を構えなおした。 |