|
「えっとー・・・・・・この人は、一応俺の母親で・・・・・・」 「ウレーネです。カインの奥さんとジェイクの母親をしてます」 彼女はニコニコと笑みを浮かべながら言った。 どう見ても17、8歳にしか見えない少女を母親だと紹介されて、一同は信じられない という表情を浮かべていた。 ( 当然、こうなるよなー・・・・・・ ) ジェイクは、やれやれとため息をついた。その時だった。 「彼女は人間ではない。精霊・・・・・・それも、高位精霊と呼ばれる存在だそうだ」 隣から、ユーリスがサラリと言った。大した事ではないというように、涼しい表情で。 それを聞いたガイルは、「まさか!」と大声を張り上げた。 シルファー達は、ぽかんと口を開けたまま静止する。無理もないだろう、目の前にいる女性が 《人ならざるもの》だと紹介されたのだから・・・・・・。 「あなた方の話を信じると言った理由、分かって貰えましたか?」 そう言うとユーリスは、にっこりと微笑んだ。 精霊とは本来、姿形を持たない精神体である。それは、大陸中の誰もが知っている 事だった 。しかし精霊と紹介された彼女は、人と同じように肉体を持っている。 それは、彼女が《高位精霊》と呼ばれる存在だからだった。 高位精霊とは、精霊達を統べる者達を言う。 彼らは肉体を持ち、人間を遥かに超える寿命と、《マスター》をも凌駕する 強い力を持っている。そして、大陸の何処にある深き森の奥に住まい、 決して人間の前に姿を現す事はない。 魔術師の歴史では、人間に《魔術》を教えたのは、彼ら―――《高位精霊》達だという説もある。 しかし、それは言い伝えでしかなく、真実を知る者はいない・・・・・・。 ( 18年前―――― ) 王都1つが消し飛ぶ程の、巨大過ぎる力の暴走を鎮める為、現《マスター》である カイン・クラークは、高位精霊に呼びかけた。 ある意味、神頼みとも言えるような行為だった。 しかし、彼の必死の呼びかけに応じた者がいた。それが彼女、ウレーネだった。 カインの強力な魔力に引き寄せられたのも真実だが、 ウレーネは高位精霊としてはまだまだ若い。人間の前に姿を現したのは、 彼女の好奇心だったのかもしれない。 その時、あろう事か呼び出した人間・・・カインに一目惚れをし、彼女の方から求婚したのだという。 その為に父親からは勘当され、以来1度も里帰りをしていないのだとか。 ウレーネの父親は、水の精霊を統べる者・・・・・・精霊王の一人である。 言うなれば彼女は、精霊の中でも 王族という立場になる。 高位精霊を呼び出した魔術師は、長い歴史の中で他にも何人かはいたかもしれない。 しかし、高位精霊を妻にしたのは、後にも先にもカイン・クラークただ1人だろう・・・・・・。 「それで? こっそり監視するなんて、そんなに息子が頼りないってのか」 ジェイクは呆れた顔で言った。 「あら、私はカインに頼まれただけよ。ユーリスさんが無茶をしそうになったら、 止めてやってくれってね。本当に心配性なんだから、カインったら」 「カインの奴・・・・・・」 今度はユーリスが眉をしかめる。ジェイクはそれに、思わず噴き出した。 「まあ、どうせ呼ぼうと思ってたから、丁度良かったけどな」 「パラディアの王宮に現われたという、《人ならざるもの》の正体が知りたいんでしょう?」 ジェイクはそれに頷く。 彼女はユーリスの隣りの空いた椅子に腰掛けると、真っ直ぐにシルファーを見つめる。 そして、ニッコリと微笑んだ。 「さすがは王家の血ね、本当に綺麗な娘さんだわ」 「は、はぁ・・・・・・」 ( ため息の出るような美しい方に、綺麗だと言われても・・・・・・) シルファーは複雑な表情を浮かべる。 「シルファーさん、気をつけ方がいいわよ。 あなたの目の前にいるのは、 老若問わず見境無く女を口説く、アルハント一の女ったらしなんだから」 「え?」 シルファーは驚いた顔で、ジェイクを向く。 「違う! 俺じゃない!」 ジェイクは、ぶるぶると首を横に振って否定した。隣に座るユーリスが、思わず噴き出す。 更に、彼の隣に座るウレーネも笑い出した。 シルファー達は、キョトンとした顔で3人を見つめている。 「ごめんなさい、つい可笑しくって。この子・・・ジェイクに、女を口説く甲斐性はないわよ。 自分の息子ながら、情けないけどね」 「では、まさか・・・・・・」 シルファー達は、ハッとユーリスの方を向く。当人・・・ユーリスはまだ、必死に笑いを堪えて いた。 ジェイクは、ゴホンと2度咳払いをする。 「母さん。それで、その《人ならざるもの》の正体ってのは分かるのか?」 ウレーネは考え込むような仕草を浮かべる。一同は緊張の面持ちで、彼女の次の言葉を 待っていた。 「残念だけど、私にも分からないのよね」 「はぁ?」 間抜けな声を出したのは、ジェイクだった。 「恐らくは、魔物の一種だと思うのだけど・・・・・・」 「魔物・・・・・・?」 呟いたのはジェイクだったが、全員が同様に驚いた表情を浮かべている。 「あら、知らなかったの? この世界に存在するのは、人間だけじゃないのよ。と言っても、 魔物たちは既に、千年以上も昔に消えた筈だけど」 「消えた・・・・・・それは、なぜだ?」 ユーリスの質問に、ウレーネは続ける。 「人間、精霊、魔物・・・・・・かつてこの大地には、他にも様々な種族が存在して いたそうよ。その中でも魔物達は、強靭な肉体と力を持っていた。知能の方は、少しばかり劣って いたみたいだけど。 精霊は人間と共に、魔物達と戦っていたと聞くわ。その時に魔物達に抵抗する手段として、 私の祖先・・・高位精霊たちが人間に魔術を教えたとも。 人間たちがどんどん増え続けるのと反比例して、魔物達の数は次第に減っていった。なぜならば、 魔物達には繁殖能力が無かったから。彼らが消えた理由は、長い長い寿命が 尽きたからだと。 そして魔物達は滅び、私たち精霊は姿を消し、やがて人間がこの大陸の支配者となった・・・・・・」 一同は、静かにウレーネの話に耳を傾けていた。 そして彼女の話は、ここに居る者全員が、初めて耳にする真実だった。 「もしかすると、最初の兵士の死体が見つかったという塔は、その魔物を 封印する為のものだったのかもしれないわね。それも、生きたままの状態で」 「あの塔は・・・・・・ファーネスト王家がパラディアを建国した当時に建てられたものだと 聞いています。塔そのものに強い結界が張られていて、魔術ですらも立ち入る事は できないようになっていました。私が父から聞いているのは、あの塔には決して近付いては ならない、という忠告だけですが・・・・・・」 そう言うと、シルファーは静かに視線を落とした。 父・・・という言葉を口にしたせいだろう。 「そういえば、あなた達はどうして逃げて来れたの?」 ウレーネは、背後に立つ騎士達を振り返った。彼らはお互いに目を見合わせる。 「それが・・・・・・王宮の門の手前で、化け物はピタリと止まったんです。 そのまま、一歩も外に出ては来ませんでした。 だから、我々は近くの町まで走り、馬を借りて国境の森まで向かったんです」 「なるほど・・・・・・。話を聞く限りでは、魔物は何者かに操られていたようね。それがおかしいのよね、 彼らが人間に従う筈は無いのに・・・・・・」 彼女は意味ありげに呟くと、再びシルファーに視線を戻した。 「さっきのあなたの話を聞いていて、もう1つ気に掛かる事があったのだけど」 「何でしょう?」 「ラティウスは、あなたでファーネストの血が最後だと言ったそうね。彼はあなたの 父親・・・国王ガゼリウス・ファーネストの弟ではないのかしら?」 ウレーネの言葉に、パラディアの者達がハッとした表情を浮かべた。 |