◆越中五箇山物語◆vol.17

※文章は五箇山在住の方から頂いたものをエッセイ式に掲載しております

ワールドワイドな音の世界に生きる 五箇山のマイスター三人衆    

 民謡の里五箇山に生きる、彼らの手から作り出されるのは、「楽器」である。
   辻 四郎さんは、ギター職人。
 中学卒業後、京都の工房で修業の後、帰郷。独立して工房を構えた。
 反りを防ぐため、伐採前の木がどのように曲がっていたかを考慮し、型を抜く。
 「声の無い木との会話」を続ける毎日だ。
 あらゆる角度からゆがみがないか何度もチェックし、慎重に作業を続け、約1カ月かけてひとつの作品を完成させる。
 木材やニスなどにとことんこだわり、「鳴り」「響き」を追求したギターは、顧客1人ひとりの要望に沿って製作する完全(オーダー)注文品(メード)。
 愛好家の間で高い評価を得て、全国からの注文が後を絶たない。時には無理に近い注文もあるが、「難しい注文ほど完成した時の達成感は大きい」と笑う。  「私は芸術家ではなく、職人。表には出ず、ひとつずつにこだわり続けたい」と話す。 大瀬さん
 大瀬国隆さんは、こきりこの里上梨に工房を構える、バイオリンなどの弦楽器の弓を作る職人だ。
 辻さん同様、中学卒業後に故郷を離れ、東京で工芸高校の夜間に通いながら修行を重ね15年、足掛け30年でやっと満足のいく製品を完成させた。
 アメリカで開かれた製品のコンペティションでゴールドメダルを取得。顧客には国内外の演奏家が名を連ねる。「見た目には脇役である弓も、演奏家にとっては楽器本体と同じく大切なもの」と語る。
 その他にも、本場イタリアのクレモナで開催されたコンペでも高い評価を受けた。
 そのプライドが、ソリスト達ののピンと張りつめた背すじに負けない、ねばりのある弓を産みだす源なのだ。(しかし大瀬さん、仕事をしすぎたか頭が低いのか判らないが、猫背である。)  坂本さん
 大瀬さんの近所に工房を構える坂本義明さんもまた、中学、高校を卒業後、東京の工房で修行して、一流の腕を磨いた楽器職人だ。  
 主に手がけるのは、弦楽器。ダブルベースやバンジョーなどは、演奏家たちからも高い評価を得ている。  
 「木」という素材そのものを愛する坂本さんは、楽器以外にも、家具調度品や、時計などの工芸品なども作る。  
 素材をどうやって生かすか、木目をどう見せたらいいか。
 例えば弦楽器という西洋の品に、象嵌や寄木、彫金など日本古来の伝統的技術をトッピングしたり、あるいは、自生の栃やケヤキなどを使い作品を次々と創作する。     
 坂本さんは、こきりこ唄保存会の会長でもある。こと、こきりこの事になると、本業同様に熱心である。小さな頃から、こきりこに慣れ親しみ、歌や楽器を覚え、奏でてきた、こきりこ「命」なのだ。
 大瀬さんは、工房には弓のブランド名ではなく、「こきりこ民芸」という看板を掲げる。こきりこ踊りに使う「ささら」を作る工房の主人でもあり、「この地に産まれ育った人は皆民謡が宝」とも。  
 辻さんは、越中五箇山麦屋節保存会のメンバー、歌い手であり、五箇山に逃れて来た平家の落人が伝えた格調高くかつ哀調を帯びた調べを大切に守るひとりでもある。  
 同じ頃に帰郷した3人は、当初同じ工房で仕事をしていたそうだ。 その頃撮った写真には、まっすぐな目をした3人が並んで写る。
 時は移り、平成の世。 三人のそれぞれの顔には多少のしわが刻まれ、孫に目を細める「おじいちゃん」に。 仕事を、そして故郷の唄を愛し。 この職人達に共通しているもう1つの顔ともいうべきは、「ふるさとの唄」を誇りに思う心が、今の仕事の源であるということだろう。

文章:@ゆっけ   2004.9

※写真はイメージです

vol.16へ    バック・ナンバー   vol.18へ




サイトマップ

トップページ