◆越中五箇山物語◆vol.16

※文章は五箇山在住の方から頂いたものをエッセイ式に掲載しております

夏休みの出来事、そのB

 時が過ぎ、平成の世。
 私の中で、夏休みの物語は終らなかった。
 高校生になった私は、夏休みに、地区にあるプールの監視アルバイトをしていた。
 午前中は、みやげ物屋で働き、午後からは小学生の泳ぐ姿を眺める毎日だった。
 ある日、小学生の様子がおかしいことに気がついた。 おかしい、というか、なんだかコソコソしている子が何人かいる、といった風だ。
 理由を聞いて驚いた。
 なんと、「仔犬」である。
 それも小さいのが3匹、ダンボールに入っている。
 近くにある「流刑小屋」に捨てられていたそうだ。
 ひとりが、私に向かってこう言った。
 「誰にも言わんといてね」
 こういうとき、どうすればいいんだろう。私が高校生だから、信用してくれたんだろうか。
 子供達は牛乳を飲ませるやら、散歩させるやら、一生懸命だ。
 私も一緒になって世話をした。
 プールにも入れた。
 とにかく3匹の仔犬は、毛色もそれぞれ違うが、かわいかった。頼るものも、頼られるものもまた、未熟なヨチヨチ者同士の、楽しいひと時がしばらく続いた。
 うちの何人かが、やはり家で飼いたいと申し出たが、それぞれの事情で親にダメ出しをされ、泣く子もいた。
 そうなのだ、あの時と一緒の光景がそこにあったのだ。
 とうとうプールや建物を管理する教育委員会まで(やっぱりヤクバさん。そしてあのときの旧校舎は、10年経って鉄筋 の公民館に変わったのでした)
 巻き込み、保健所行きという話しも聞こえ来るまでになった。
 幸い、犬達は、行き先が決まった。
 お寺の若住職、1人の子の家庭。私も、1匹の犬を引き取った。
 子供達が、悲しい思いをしなくて済んだ。それに小学生だった自分たちが泣いた思い出、それを今度はどうしてもハッピーに終らせたかった、そういう思いもあった。
 私は、雑種の中の雑種、といった風貌の仔犬に「ジーナ」という名前をつけかわいがった。
 飼いたかった子供達も、毎日みんなで見にきてくれた。  
 それから10年間。  
 いろんな人にかわいがられた犬だった。  
 地方から出稼ぎにきているおじちゃん、チャリンコ通学の高校生。
 年中ばあちゃんの仕事場に鎮座し、作業を見守り、春は山菜取りに行き、熊よけに連れて行ったつもりがさっぱり怖がりで、人のそばを離れずにいる、やさしい犬だった。
 5年前、ジーナはこの世を去った。
 ひとつの長い物語が終ったのだ。 私はいつまでもいつまでも泣いた。
 実は、地区の私の年代で、カブトムシ売りの話題は出ても、あの時の犬の話は、あまりというか全く出ない。
 しかし、切ない夏休みの思い出を共有する私たちの友情・結束は、今でも固い。

文章:@ゆっけ

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