◆越中五箇山物語◆vol.15

※文章は五箇山在住の方から頂いたものをエッセイ式に掲載しております

夏休みの出来事A

 小学生の私達がかくまいだした親子の捨て犬は、人なつこい犬で、すぐに私達のいい友達になった。
 散歩に連れて歩き、臭いなと思えばプールの水で洗ってやったり、一緒に泳いだりもした。  
 ところが、内緒といっても子供のやる事、限界というものがあるのだ。
 ある日、「ねえ、『保健所』がくるがいって」
 当然親達にはバレバレだったわけで、親が役場に勤める友達のひと言に危機感を覚え、犬のかくまい場所を、旧分校舎の裏に変えた。
 ところが運悪くそこにはヤカンバチの巣があり、犬を隠す作業をしているうちに、蜂の巣をつついてしまい、何人もの子が刺されてしまったのだ。
 小さな集落では騒ぎとなり、医者に運ばれた子も出てしまい、犬達の保健所行きは決定した。
 泣いてもわめいてももうおそかった。
 しょうがないのだ。
 この先飼うにはお金がいる。予防接種だって何だってしなければいけない。
 そんな後先のことを小学生が考えて行動できるわけがなかったのだ。
 「かわいい」だけで動物は飼えない。
 そのあと、犬が連れてゆかれたところは覚えていない。
 親達の、「保健所の誰かが飼ってくれる」というひと言を信じた、それだけは覚えている。  
 そう信じるしかなかったのだ。
 何日かして、犬は私達の前から姿を消した。 見ないように連れて行ってくれたのだと、今になってから思う。
 親である大人もまた、悪者呼ばわりされてつらかっただろうと思う。
 私たちが成長する上で、乗り越えなければいけない事と、何も言葉で諭さずとも、いつかはわかってくれると、思っていたのだろうか。
 五箇山の夏は短く、秋はお盆を過ぎるとすぐにやってくる。
 犬がいなくなって、大声を上げて泣いた私達のあの時を今でも思いおこさせる、やかましいほどの蜩の鳴声。  
 それもまた、「夏」を象徴するひとつである。

文章:@ゆっけ

※写真はイメージです

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