◆越中五箇山物語◆vol.9

※文章は五箇山在住の方から頂いたものをエッセイ式に掲載しております

まつりのごっつお そのA・ダラのアズキ

 もういくつ寝るとー、まっつりだまつり〜♪
 と、私にもこんなに指折り数えて祭りを楽しみに待ち望む、外見も性格もかわいらしい時代があった。
 そんな春のある日、祭りの準備にいそしむ私の祖母が、赤飯に入れるアズキを準備しながらこう言った。
 「わいが、アズキ煮りゃー、良いがになろうぞい」
 「えーなんでえ?」
 こう聴く私に祖母は、
 「アズキってな、再々蓋とって見てみたり、しだいて(早くに)火から降ろすというと、芯が残ったり固とうなったりして良いがには煮えん。 わりみたいなもんが煮ると、忘れてダイカラ(全く)蓋も取らん見―もせんとおりゃ、フカフカの良いがに煮えよう(笑)」  
 「へえー」
 そうか、わたしみたいなダラな忘れんぼうで、不精な人間こそが、アズキ炊きに向いているのか。  そうかそうか、ばあちゃんはいいことを教えてくれた。
 私は宿題の日記に、そのくだりをひと通り書いた。
 次の日。担任のK先生は、
 「忘れんぼうはいけないな。それにしてもゆっけのばあちゃんて、楽しくて、おもしろい事を言う人なんだね」 という返事を書いてくれ、「とちの実」(今でも発行されているかどうか判明しないが)という五箇山地域に住む小学生の文集に、それを紹介されるとおっしゃったのである。
 さて、何ヶ月かたったある日。各家庭に「とちの実」が配られた。
 家に帰った私に、ばあちゃんが、
 「わり、こりゃ何を書いちょるがじゃー」
 と、私を叱る。
 当然、「ダラのアズキ」も、皆さんに読まれるワケである。語るに、巷の保護者あるいはばあちゃんたちから、
 「あんにゃ、カワイヤわが孫つかまえて『ダラ』じゃのって、ひどいババさじゃ」  
 と、かように非難轟々であったらしい。
 私や、日記を文集に推薦した担任の先生としては、孫とババさのおちゃめでほほえましい会話の様子を、紹介したに過ぎなかったのであるが、世間さまからはすっかり「ヒドイ事言いのババさ」のレッテルを貼られた、ばあちゃん受難の一件になってしまったのだった。
 4世代同居の中で育った、いい思い出の中のひとつ、孫に語るわかり易い教訓・おばあちゃんの生活の知恵なのだ。
 今でもたまに、というかしょっちゅう鍋を焦がして姑に高い声で叱られる30歳の私であるが、それに限らずやっぱり我が子や孫にも、物事をわかりやすく例えて語り、聞かせられるみっともない、もとい、「賢いババさ」になりたいと思う。
 でも、ばあちゃん御本人様(79)からは、今でも赤飯ごとになる度に、
 「わりが昔よー「ダラのアズキ」を書いてナー、オラが恥かいてなー」
 と、笑いながら恨み節を浴びせられるのである。
 ばあちゃん、ごめん。

文章:@ゆっけ

※写真はイメージです

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